2: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:34:51.13 ID:1Ml/enjOo
夏の青ささえどこかへ吹き飛ばしてしまったような、透き通った風がひとつ、そこに吹いていました。
朱に染まった西日はどこか遠くへと溶けきってしまい、辺りはもう星を迎える準備をしているみたい。
3: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:36:32.38 ID:1Ml/enjOo
「お疲れ様」
「プロデューサーさんもお疲れ様です」
4: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:38:23.93 ID:1Ml/enjOo
「撮影、どうでしたか?」
「ああ、良かったよ。その路線もいけるんだなって」
5: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:39:42.98 ID:1Ml/enjOo
なんだか、信じて良かったという言葉を反芻しては、その言葉がたまらなく嬉しくて、少しだけ視線を宙に浮かせてしまった。緋色に染まったその頬は少し見せられない。
自分の視線を上へ上へと押しやり、やがてひとつの到達点へと止まった。
6: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:41:00.02 ID:1Ml/enjOo
いつの間にか目の前には、すぐにでも届いてしまいそうなぐらい、近く、大きな月が私たちを煌々と照らしていた。
7: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:43:13.04 ID:1Ml/enjOo
「素敵な皓月ですね……」
いつの間にか秋の色に移り変わっていたそれを、プロデューサーさんと二人で眺める。うるさい胸を抑えるために吸い込んだ空気が体の中を駆け抜けていったおかげで、さっきよりもずっと頭が冴えていくのがよく分かってしまった。
8: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:45:14.45 ID:1Ml/enjOo
天を仰げば、闇に溶けきらない強い光がまばゆく輝く。夜空は故郷の海の様にただただ広がっていって果てが見えなくなってしまった。
「確か、天の海って表現がどっかの詩にあったよな」
9: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:47:19.43 ID:1Ml/enjOo
「それならこの月は何に例えましょうか?」
「月か、月でポピュラーなのはやっぱりかぐや姫だな」
10: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:50:13.71 ID:1Ml/enjOo
そう言うプロデューサーさんの視線は、どこか遠くを見つめるようで、その瞳の色は、私がアイドルになるということを伝えた時のおじいちゃんと同じ色をしていた。
少し自嘲気味に笑うプロデューサーさんの、そういうところが嫌で、気づけば私は両手を差し出して彼の右手を包み込んでいた。
11: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:51:54.09 ID:1Ml/enjOo
「プロデューサーさん、私の姿はちゃんと見えていますか?」
見上げた視線がぶつかる。いつもなら何言ってるんだって、茶化してくるはずなのに、こんな夜だからなのかな。真っすぐ私のことを見つめたまま「見えているよ」って。
12: ◆BoSt6wfla6[saga]
2017/09/13(水) 01:53:20.73 ID:1Ml/enjOo
「それなら私の声は……」
プロデューサーさんが目を閉じて静かに頷く。
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