35:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 18:06:17.55 ID:4sMggCAno
「幸子、忘れ物はないか?」
「うん、大丈夫……それとパパ、この本持って帰ってもいい?」
「何でも持っていけばいいさ」
「まあ! お義母さん、そんな、悪いですよ……お米なら家にたくさんありますから……」
「この婆さんは人に物をやらないと気がすまないんだ……ありがとな、おふくろ。親父も世話になったな」
「ね、おばあちゃん。雪美さんに伝えておいてくださいね……いきなり居なくなってすみませんって……それとペロにも……」
雨の降る夜明け、家族三人は名残惜しく別れの言葉を交わして車に乗り込んだ。
玄関で見送る祖父母のシルエットが戸口の明かりに照らされている。
後部座席に座っていた幸子はそんな二人の影が見えなくなるまで手を振っていた。
空にかかる分厚い雨雲にはすでに明け方の太陽の光が滲み始めていたが、村はまだ寝静まったまま、幸子を乗せた車だけが機械的なエンジンの音を響かせていた。
幸子は寝不足の目をこすりながら車窓にもたれかかり、薄暗い外の景色を眺めていた。
車はものの数分で村を離れ、山沿いの道を走って行った。
市街地に降り、高速道路に入る頃にはもうすっかり朝になっていた。
幸子はうとうとと眠気にまどろみながら、窓の向こうに通り過ぎていく山々をぼうっと見つめた。
この一週間足らずの色々な思い出が暁の雨の中に浮かび上がり、そして遠ざかっていった。……
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