美竹蘭「陽が落ちて」青葉モカ「夜が明けたら、また」
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7: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/09/03(日) 19:42:54.38 ID:6LMiOYr90



 時がたつのは早いもので、なんて言葉を使うほどの時間は過ぎていないと思うけど、長いのか短いのか、今になっては判断がつかない一か月は気づけば終わりを告げていた。

 ギプスが取れて、左腕と見比べると細くなった右腕にちょっと驚いたりしながら本格的なリハビリも始めて、どうにかギターを握れるようになったのがついこの間のこと。記念すべきモカちゃん快気祝いのスタジオ練という日だったのだけど。

「蘭、遅いな……」

「こんな記念すべき日に遅刻だなんて、蘭にはおしおきしないとかなー」

「それ、遅刻常習犯のモカが言うー?」

 蘭が来ないのだ。こんな日にまで遅刻しなくても、とは思う。でも、一緒に行こうと誘えなかった時点であんまり強く言うことはできないのかもしれない。

 蘭と言い争いをした日以来、あたしは蘭と少しだけ距離を取って、その分をあたし以外のみんなに埋めてもらっていた。時間を延長しての練習は日に日に減っていって、それでもちゃんとギターもボーカルも上手くやれるようになっていた。

 ここからはあたしの番だと思う。まだ思う通りに動いてくれない指先と腕の感覚を、少しでも取り戻していかないと。そんな矢先くらい、全員がいい感じに揃ってくれたってよかったのにな、なんて不満をひとつ。

「あれ……みんな。蘭ちゃん、今日は来れないってメッセージが来てるみたい」

「本当だ。どうしたんだろうな……蘭はちゃんと説明してくれないから事情が分からないよ」

「うーん……仕方ないし、四人で練習始めちゃおっか。今日は早めに切り上げて、蘭の家に行けば何があったのかも聞けるよね」

 ひーちゃんの言葉に反対意見は出ず、そのまま練習が始まった。一人足りない演奏はやっぱりちょっと物足りない。みんなは一か月以上こんな風に練習してたんだと思うと、迷惑かけたんだなって実感が改めて湧いてくる。

 ついでに、すぐには上手くいかない歯がゆさも蘭が感じていたものだと思うとへんなシンパシーが生まれた。少しでも早くみんなに追いつきたい……だけど、無理しちゃダメだって蘭に注意したあたしが同じことをするのは間違ってる。気長にやれるほど時間に余裕はないけど、だからこそ確実に進まなきゃ。

 小休止を挟みながら練習を重ねていく。アレンジされた譜面は弾きやすくて、ちょっとずつだけどフレーズが形になっていくたびに自信が湧くのを感じた。

「今日はここまででいいだろ。これ以上遅くなると、蘭の家に迷惑がかかるような時間になるし」

「そうだねっ。みんな、お疲れ様!」

「お疲れー。モカも何とかなりそうでよかったぁ」

「ふっふっふ、どやあ。モカちゃんに不可能はないのだー」

 いつも通りなら、ここで蘭がチョーシ乗りすぎ、ってツッコミを入れるところだろうか。やっぱり五人の方が掛け合いのテンポも良くなる気がする。

 蘭、なんで休んだんだろう。蘭が携帯に連絡だけ入れて休むのって、珍しい気がする。たいていの場合は誰かに直接休むって伝えてくるから、誰も休む理由を知らないなんてことはそうそう起きないはずなのだ。




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