美竹蘭「陽が落ちて」青葉モカ「夜が明けたら、また」
↓
1-
覧
板
20
6
:
◆kiHkJAZmtqg7
[saga]
2017/09/03(日) 19:39:51.05 ID:6LMiOYr90
*
「……あたしはもうちょっと残って練習してく。みんなは先に帰っていいよ」
今日の蘭はそう言うんじゃないかと思っていた。ギターの譜面アレンジが一通り完成して最初の練習はやっぱり難儀だったらしい。
ギターの譜面が複雑になっているからといって、ギターに集中すればその分だけボーカルが不安定になる。片方が崩れればもう片方も連鎖的に上手くいかなくなっていた。今までやって来なかったことをしているんだから、最初のうちは当然だと思う。それで納得しないのが蘭なのも、わかってることだけど。
「蘭ちゃん、あんまりムリはよくないよ……?」
「経験者は語る、だね。でも、ダメって言っても蘭は聞かないでしょ?」
「蘭が残るなら、あたしも残ろっかなー」
あたしの言葉にだけ、蘭がぴくりと反応を示した。表に出そうとしてないだけで、ひどくわかりやすい。
「モカが残ってもやることなんてないと思うけど」
「そーおー? ほら、夜道を蘭が怖がらないようにとかさー」
「っ、そんなに子供じゃないし」
「まあまあ。でも確かに一人だけ残すってのは良くないかもな。つぐの時も、どれくらい無理してるのか誰も知らなかったから起きたことだと思うし」
少しずつ場の空気が誰かを残していこう、って方向に流れ始める。それも、最初に立候補したあたしに任せようとする方へ。蘭の表情はどんどんと難しくなっていくようで、ちょっと寂しかった。
最近、蘭はあんまりあたしと二人きりになりたがらない。理由は聞けてないし、そもそもはっきりと行動にされたわけでもないけど、なんとなく伝わってしまうこともある。
「それじゃ、あたしが蘭を見てるってことでいい?」
「……勝手にすれば」
ぶすっと一言だけ返した蘭に対して、不意にそのほっぺたをぐにぐにしたい衝動に駆られた。だいたいの場合怒られるけど、機嫌の治りが早くなることもあったりなかったり。でも今は片腕が使えないから無理そうだ。
ひーちゃんたちには適当に挨拶して、さて蘭にどんな言葉をかけようかと考え始める。蘭は蘭でギターを構えて、すぐにでも練習に入ろうとしているみたいだった。
まだ完璧には噛み合わないギターとボーカルをBGMに、蘭があたしを避ける理由を想像してみた。あたしのケガは間違いなく関係してるとは思うけど、その裏で蘭が何を思ってるのか、まだよくわからない。
心配ないってちゃんと伝えれば安心してくれるだろうか。それとも。さーやが言っていた言葉も、ちょっとだけ頭に残っている。
……そういえば、ケガしたあたしに駆け寄ってきた蘭、すごく震えてた。あたしを見るだけでそのときのことを思い出して辛くなったりしてるのかな。だとしたら、一緒にいようとすることは余計なお世話どころか逆効果だ。
「……蘭、そろそろ休んだ方がいいんじゃない? みんなで練習してた時から、ちゃんとした休憩挟んでないでしょ」
「……別に。疲れてないから」
危なっかしいなあと思う。練習に夢中になる感覚は分かるし、うまくいってないとちょっとムキになる気持ちだって否定はできない。でも、見てみぬふりもできなかった。
「じゃあ、モカちゃんの話し相手になってよ」
「はぁ……モカさ、そんなにあたしが心配?」
「んー? まあ、蘭は思い詰めると周りが見えなくなる方だからねぇ」
「……別に、今くらい前だけ見てたっていいでしょ。モカはあたしのこと、放っといてよ」
やっぱり、ちょっと聞き流せない事ばかり言う。そんな心配させるような態度で放っておいてなんて言われたら、なおのこと放ってなんておけない。
「やだ。そういうこと言う蘭は絶対放ってなんておかない」
「っ……! モカ、わかってない。モカは何よりも、自分のケガのこと考えててよ! それを治すのが、一番先でしょ……!?」
「むー……。だから蘭が無理するのを見過ごせっていうの? 蘭こそわかってないんじゃないの?」
「〜〜〜〜〜〜!! モカの、バカっ……!」
「あ、ちょっと蘭っ!?」
逃げられた。あの時の屋上と似たシチュエーション……だけど原因は冗談なんかよりもっと深刻で、蘭はあたしの顔を見もせずにどこかへ行ってしまった。
取り残されたあたしは結局蘭の気持ちも分からずじまいだ。今更みたいにやっちゃったな、って思うけど、それでも間違ったことを言ったとも思わない。
明日、みんなに相談してみよう。あたし一人で話しても、またこうやってぶつかってしまうかもしれないから。
蘭と意見が合わなくて言い争いをするようになったのは、成長なんだろうか。それとも悪い傾向なんだろうか。どちらにしても、ちょっと虚しいのは確かだった。
<<前のレス[*]
|
次のレス[#]>>
13Res/32.13 KB
↑[8]
前[4]
次[6]
書[5]
板[3]
1-[1]
l20
美竹蘭「陽が落ちて」青葉モカ「夜が明けたら、また」-SS速報VIP http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1504434743/
VIPサービス増築中!
携帯うpろだ
|
隙間うpろだ
Powered By
VIPservice