323: ◆/tT5hkyI4g[saga]
2017/10/04(水) 22:16:40.77 ID:Q2Ts9Z3PO
マンションの自分の部屋の前に立つと、俺の部屋には違う苗字……恐らくあの男の名前が表札に刻まれていた。まぁそうだろうなと予感はさせていた俺はまだふらついた意識の中で、階段を登っている。元々帰るつもりはなかった。
コツ、コツ、コツ
「(……あの苗字。あの男、どこかで見たと思ったら以前入って半年もせずにウチを辞めた奴だ)」
カチャ、ドンッ!ガコッ!!
……この場所には行ったことがなかったからわからなかったが、結構立て付け悪かったんだな、このドア。
「(……そうだ、アイツは入って数ヶ月もしないうちに俺から担当を引き継いだ娘に大きな仕事を持ってきた)」
カツ、カツ、カツ
誰もいない場所だからか、革靴が地面を叩く度に少し心地のいい音が響く。
「(俺は正直彼に嫉妬した。だからその担当アイドルを下げる風潮をネットに流し、プロデューサーの方は担当についてのちょっとした解釈違いに対してしつこく口出しし、言いふらしもした。その結果彼は自分から辞めていった)」
ヒュゥ、と向かってくる風が、吹き出る汗を乾かし、体がだんだん冷えていくのがわかる。
「(……なにがその子らしさだ。自分の理想を押し付けただけじゃないか。彼女らが変わろうとしていたら即刻否定。現状維持にはしる。だから未だに凸レーションに固執する。だから比奈の成長を促してやれない。幸子にはバラエティばかり取らせる)」
どの道、もう俺には彼女を導く資格はないし、むしろ彼が先導を切って進む今こそが、あのプロダクションの本来の姿だったのだろう。
だから
とんっ
間違いは、紅く塗りつぶすとこにした。
ぐしゃっ
『終わり』
344Res/309.22 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20