293: ◆lT1JsxjocTLP[saga]
2017/10/01(日) 03:32:18.74 ID:iKH7pqC/0
死んでいない。
身体の下の慣れた感触は、畳のざらざらだった。
木目上の天井にも、見覚えがある。
身体を見回しても、服装がTシャツ一枚とひどくよれたジャージズボンに変わっているだけで、他に変化はない。
「なにぼーっとしとるか!ゴミ捨ててきんしゃい!」
怒号と共に大きいゴミ袋が二つ飛んでくる。
アイドルがこんな格好で外出たらダメだろ、と着替えようとすると、
「いつもそんなんでゴミ捨て行っとる!」
と、謎のおばさんに睨まれてしまった。
と、いうか。謎のおばさんっていうか。
どっからどう見ても私のお母さんだ。見覚えのある部屋も、ここが私の実家なら説明がつく。
しかし、全く納得はできない。
混乱したままの頭で、外に放り出される。
終わりかけとは思えない日照りが、アスファルトも草も関係なく照らしている。
ゴミ袋は意外に重く、少しの距離でも汗が垂れる。
って、こんなことをしている場合じゃない。一体何が起こったのかを突き止めて、事務所へ戻らないといけないのに。
その時、タイミングよくポケットのスマホが震えた。藁にも縋る思いで、通話に応じる。
「あ、もしもし!今、どうなってる?」
「パイセン!!」
私は感激の言葉を飲み込んで、状況を細かく話す。
「なるほど……。大体何が起こったのか分かりました」
「ほんとっすか!?」
やっぱりパイセンは頼りになる。
「やはりあの薬は、本物なんですね。はぁとちゃん、やっぱりあなたは寿命が尽きてしまったんです」
諭すような彼女の口調で言われても、その意味を飲み込めない。
「でもはぁとは死んでないぞ☆ 現にこうやって通話出来てるじゃないすか!」
「年齢の、じゃないんです」
一呼吸おいて、再びパイセンが言う。
「アイドルとしての、です」
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