女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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88:名無しNIPPER
2017/08/29(火) 21:24:50.90 ID:KsUO0z3M0

「学力試験第一位、佐藤祐樹」

 それは、なにもかもを破壊する魔法の呪文のようだった。
 照は濁りきった瞳でそれを発した。
 動揺と、諦念と、何かに対する失望。

 組織の調査能力を甘く見ていたわけではなかった。だが組織に余力は、あまりない。だから志望者を詳しくなど調べない。特に末端はそうだ。裏切りはその地帯を切り離すことによって対処される。同時多発的な裏切りは組織の壊滅だ。政府が取れない手段じゃない。常々思っていたことがある。反社会的な抵抗組織はかえって法に対する市民の結束を強めている。全力をだせばつぶせないことはない組織を、なせ政府は潰さない?
 半分、泳がされている、侮っている、そこまでの余裕はない、なにかしら考え付かない事情がある。
 そんなことを推測した。だから自分の身元に関しては調べられたとしても、そこまではないと、そう判断した。
 だがそれは賭けだった。防ぎようがないから、臭いものに蓋をするように見ないようにした。

 消去法的選択。
 でもこれしか、やれることはなかった、だから。

「それが……?」

 強がりだった。それがなんだと。だからどうしたといわんばかりに、平静を保った。
 声は震えていた。

「幼馴染の近藤雪は今年選ばれた犠牲者である」

 ――すべて終わった。

 いやまだだ。最初からバレていたなら僕はここに入れてはいなかっただろう。つまり気づいたのはあとからだ。今や僕は組織として非常に欲しい人材になったはずだ。まだ芽はある。
『祐樹君、君はボスに呼ばれたようだ』
 照が最初に言った言葉だ。予感がある。だがそれでも、最良の選択肢を取り続けるという選択は間違ってはいないはずだ。

「そうですよ、ちょうどよかった。その件についてずっとボスに話そうと思ってたんです。ボスは時間がなかなか時間が取れない人だから」

 自分の言葉がどこまでもしらじらしく聞こえる。
 落ち着け、と強く念じる。
 焦ったところでいいことはなにもない。いつものように最善を選べばいい。やることはいつだって同じだ。



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