女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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163:名無しNIPPER[saga]
2017/09/15(金) 00:45:42.04 ID:jX7ap57O0
 彼女は絶句していた。弟が死んだという事実に、衝撃を受けていた。

「……今更、戻れない。卓也が死んだんだ。僕もここまでくるのに犠牲にしたものがあった、なのに、それら全部を無視して、きみはここに残るの?」

 もう止められなかった。

「それは困る。苦しかったんだ。なのに僕の気持ちはどうなるんだ。命だって懸けた。死にかけた。……卓也は、僕の目の前で死んだんだ!」

 彼女の、泣き崩れる表情。そして……それで……。
 今、気付いた。

 自分がなにをしたのか、なにを言ったのか。
 卓也と自分をだしに、言うことを聞かせようとした。理屈ではなく、愚かにも感情に訴えて。
 優しい彼女の性格を利用しようとした。こんな言い方をすれば、傷つくって、わかっていたのに。

 ――嫌悪感。

 馬鹿なことをした。もっとやりかたがあったのに、僕は最悪をした。
 そして、もっと最悪なことは……。

「ごめんね」

 そう、それでも彼女は。

「私は、いけない」

 ――決断は変わらない。
 人が死ぬから。何人も何人も、彼女が逃げれば、死んでしまうから。
 そいつらは顔のない人物ではない。彼女が自分で確かめて、知った、無関係ではない人間。
 僕がしたことは無為に彼女を傷つけただけだった。

 完璧を目指していた。失敗したくなかった。
 なのに、最後の最後に、最悪を犯した。自分が許せなくなった。猛烈な自己嫌悪。

「嫌だよ」

 それでも彼女には生きてほしい。
 僕を選んでくれ。他人なんて気にしないでくれ。
 お願いだ。
 ……お願いだ。

「来てくれよ。お願いだ。きみがいないと、生きてる意味がない……」

 まだ、縋って。
 それでも彼女は首を振った。そして同じ言葉を繰り返す。

「私はいけない」

 自分が死ねば、救ったもののことなんてわからない。死ねば感覚はすべて失われる。誰かを救ったという実感は無意味だ。なのに。
 彼女は他人を救うことを選んだ。他人のことを思いすぎた。
 きっと原因を僕は知っている。
 他人を見捨てたまま生きることはできない。それは絶対に、『自分を許せなくなる』。




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