女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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164:名無しNIPPER[saga]
2017/09/15(金) 00:46:30.43 ID:jX7ap57O0
 ◇


 ――勢いよく扉が開かれる音。

 とっさに振り返る。
 豪華な衣服で着飾った男がいた。背後には執事とメイドが待機していた。
 瞬時に誰にも認識できない状態に、なろうとする。

 ――できなかった、

 ばかな、と思う。干渉を受けている。それをしているのは、目の前の男だった。

「誰だ」と僕は言う。

「王だ」と男は――王は短く答えた。

 細められていく目。僕を見る、目。

「入口から誰にも気づかれずに来たな? 見ていたぞ。入念に周囲を観察していたな」
 なにが起こっているのか、理解できない。こいつは何を言っているんだ?
「なにを……」

 理解したことがある。その口ぶりと容姿と、あふれる存在感を見て。こいつは明らかに、違う。まともな人間じゃない。僕と同じだ。こいつは魔素と適合している。
 全て知られていた。口ぶりから僕が入った時点で、こいつは僕を見つけていた。
 てのひらの中だ。泳がされていた、遊ばれていた。

「賢者……あの神を気取るやつに、会ったんだろう?」

 賢者を知っている。それどころか、敵対的な感情を抱いている?

「だが無意味だ。賢者のたくらみなど、上から指図するだけのやつの計画など、知ったことか」

 王はまるで宣言するかのように、そう言った。
 殺される、と思った。僕はこいつの前だと普通の人間と変わりない。逃げきれない。見せしめに殺されて、彼女は犠牲で死ぬ。
 不自然な感覚があった。本来なら今すぐにでも、指示をして僕をとらえればいいはずだった。なのに王はそうしない。ずっと僕を見ている。なにかを待っているような、僕がなにかを言うのを、望んでいるような。

 ――予感がある。犠牲と魂のメカニズム。

 成長した魂。

「動かないで!」

 叫び声。
 彼女の、声。

「その人を外に返して。私はちゃんと犠牲になる。でもその人を殺すなら、私はここで死んでやる」

 決意を秘めた、そんな言い方。絶対に実行すると、彼女はそう言っている。
 それを聞いて、胸に来るものがあった。彼女は僕をないがしろにしていたわけではなかった。僕について来てくれないのはほんとうに他の犠牲者を増やしたくないからで、僕を守るために彼女は命をかけている。

「やめてください雪様」

 メイドの女が歩み出る。感情の見えない表情。



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