女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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162:名無しNIPPER[saga]
2017/09/15(金) 00:44:59.67 ID:jX7ap57O0

「敬くんはね、いたずらっ子だけど、お父さんとお母さんを大切にしてた。茜ちゃんはね、好きな男の子がいるみたいで、将来の夢はお嫁さんなんだって」

 政府の嘘かもしれないじゃないか、と思う。でも……理屈めいたその思考が告げている。そんなことをする意味はない。あるがままの真実を見せたのだと。
 該当する知識がある。いつのまにか理解していた、魂と犠牲のメカニズム。魔素に適合したから得た、感覚。正しく犠牲になれる人はこの都市で……彼女しかいない。そしてもうひとつ、気付いたことがあった。それは……。

「海くんはね、将来――」
「――聞きたくない!」

 動悸がする。自分を殺すかのように脈打つ心臓。
 少なくとも犠牲者の不足について、政府は嘘は言っていない。
 彼女を直接見てようやく、魂と犠牲のメカニズムを理解できた。彼女のその巨大な魂の波動。ありえないぐらい人間離れした魔力。もっとはやく気付ければ、なにかできたかもしれないのに。なんでこうも、世の中はうまくいかない。

 なにがなんでも説得しなくちゃいけない。でも……どうやって? 成功の未来が、なぜこんなにも見えないんだ?
 予感がある。直感めいた、結論を示唆する記憶の渦。きっと、本当は理由を、わかっている。

「自分を大切にしてくれ、自分を優先してくれ……! お願いだ、ずっと言ってたじゃないか。他人を助けるのは自分に被害が及ばない範囲だって。きみが死んだら、誰かを救えたって……意味がないじゃないか!」

 吐き気がするほどの恐怖感。うっすらとわかっている。きっと僕は、どうやったって彼女を救えない。

「最近、人の悲鳴が聞こえるの」

 誰かを恨む声、哀願し、救いを求める声。

「わかるの。人が死んだ未来が。助けてほしいって、何人もの声が重なってるの」

 私はその声の持ち主を知っている。

「私は犠牲者の候補に直接会わせてもらった。ここではどんなことだって教えてもらえた。願えば可能な限りが叶った。私は私が犠牲なることによってどれだけ救われるか、私がいなかったらどれだけが死んでいたか、教えてもらった。私は、自分が死ぬ意味を知りたかったから。生きてきた意味を、知りたかったから」
「……」

 認めるわけにはいかなかった。
 今までしてきたことの意味。卓也が死んだこと。
 僕だって、もう元の生活には戻れない。

 今更、彼女を諦める? そんなの、絶対に無理だ。絶対に、絶対に。
 それをするなら死んだほうがましだ。彼女が死ぬことを、許容できない。
 許すわけにはいかない。僕はすべてをかけて、ここまできたんだ。

「卓也が死んだんだ」

 吐き気がする。むせかえるような感覚。


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