女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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161:名無しNIPPER[saga]
2017/09/15(金) 00:44:23.78 ID:jX7ap57O0




「会いた……かった」

 何を言おうか、なにから話そうか。そんなことを考えていた。だが最初に出た言葉は、それだった。

「嘘……うそ……」

 彼女は目に見えて動揺していた。広い部屋にぽつんと、佇む彼女。目をいっぱいに広げ、まなざしは僕へと向いている。

「迎えに来た」
「ついに幻覚を見るようになったみたい……」

 彼女の手を握る。

「ここにいるよ」
「リアルな幻覚……」

 冗談で言っているのか、本気で言っているのかわからない声音で、彼女はそう言った。
 そして彼女は静かに泣き始めた。嘘みたいに綺麗に、彼女は涙を流した。

「どうやって……どうしてきたの……? 法が大事なんじゃないの? 社会の秩序はなによりも大切だって……」
「そうだよ。世の中に犠牲は必要だ。でも、それに逆らってでも、きみに会いたかった。……助けにきたんだ」
「……変わったね。確かにキミなのに、なんだか別人みたい」

 確かに、と思う。
 彼女は不思議なものを見るかのように僕をみた。そしてまるで確かめるように僕の体に触れる。こそばゆい。

「夢……みたい」
「まだ幻覚うんぬんを引っ張るの?」
「あはは、違う違う」
「それで、助けに来たんだけど」
「どうやって?」
「どうにかできるんだ、任せて」

 卓也のことは伏せておいた。何もかも終わってそれにから話そうと思った。
 ……気が重い。でも、いずれ知らなければならないことだ。

「私ね、すっごい辛かったんだ」
「うん」
「日にちが過ぎていくにつれて自分の命の終わりを数えてるみたいで。ここの人たちはね、私が死ぬってことを示唆するの。たぶん、そうすることによって犠牲になるときの効率が上がるんだと思う。三か月で死ぬんだって、あと一か月で死ぬんだって、ずっと考えないといけなかった」
「……もう、大丈夫だから」
「キミはどうやってここに来たの? 逃げるあてはあるの?」
「賢者って人に力を借りたんだ。逃げるあてもあるよ」
「――よかったあ」

 ぞくり、とさせられる。その彼女の声音は、確かに安堵からのものだった。だが、そこには。

「キミは逃げられるんだね」
「僕だけじゃない。きみも来るんだよ」
「私はいけない」

 どうしてだ? それはできない。それだけは、絶対にできない。
 湧き上がる焦燥感と、恐怖。必ず彼女を救わなくてはならない。
 怖い、と思った。それでも平静なフリを保って僕は彼女に問う。

「なんで?」
「……私が逃げるとね、かわりに子供が死ぬの。犠牲者になれる人が少ないから、たくさん、死んじゃうの。私は犠牲者としてこれまでにないぐらいの逸材なんだって」
 懸念はあった。優しすぎる彼女は、他人が犠牲になるのを許さないのではないかと。
「……関係ない。きみは生きなきゃ。そうしないと悲しむ人がいる」
「少なく見積もって、六人」
「……」
「それが私の犠牲者としての価値。まだ二人とか、三人ならよかった。でも、少なくともこれだけいる。多ければ二十人、私の代わりに死ぬ」

 逃げていたのかもしれない。彼女が何を思うか。何を考えるか。それを想像しなかった。考えるのは助けに来てくれたんだと喜んでくれる彼女の笑顔ばかりで。
 成功すると、確信していた。
 酔っていたんだ。囚われた彼女を助ける行為は、まるで英雄のようだと。物語は幸せに包まれて終わると、根拠もなく、信じていた。


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