女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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名無しNIPPER
[saga]
2017/09/12(火) 18:45:25.33 ID:bdvuTYni0
「でも僕はそれが正しいと思うんです。自分だけは、この考えを裏切れません。僕だけが僕を見る。人が報われないのをみると、夢見が悪いんですよ」
自分のためだと言い訳して。それで僕はこの考えが正しいという。
「本当なら、世界全体は救われるべきなんです。運が悪いかったから仕方ない、は嫌なんです」
僕の考えは、実に抵抗的で、しかし、もう変えられないものだ。
「ほんとに……はあ……」
賢者はため息をついた。あきれているような、ある意味感心したような。
「君みたいな人は嫌いじゃないよ」と呆れながら言う。
「損していて苦しいのは、もうわかっていることなので」
「どこまでも曲がらないね。なんていうか……効率が悪いというか、自分に無頓着というか」
僕は笑う。
僕がするのはあくまで現実的に可能な限りだ。あまりに救いようがなにものは、救わない。あまりにも自分に被害がくるなら無視する。だが心を痛める。そいつが救われますようにと、願う。
抵抗的な行動、そういうことをする。
賢者はやれやれと首を振る。
「現実主義者で理想主義者、ここに極まりって感じだ」
「そうかもしれません」
賢者が笑う。仕方ないなあ、という表情。
「君を認めるよ。ただ、勘違いしないように。別にこの思想は君だけが持っているわけじゃない」
「わかってますよ。僕は特別なんかじゃない。むしろ、考え方は一般的な人のものに近い」
「ある意味、ラッキーで選ばれたってことだ。まあ、君の大切な人が犠牲にならなければ僕は君を選ばなかっただろうから、不幸の上で成り立つことでもあるんだけど」
なにかを乗り越えた人間、そういった者でないと、この位置は任せらない。
そんなことを、賢者は言った。
依然、彼は大切な人を看取ったことがあると言っていた。
……そういうことなのかもしれない。彼が僕を選んだのは、彼女が僕のそばにいたから。おそらく、彼と似たような境遇になりかけている僕が、信用できるような気がしたからだ。
他にも変わりはいた。でも、強いて言うなら……その役目は、僕でいいと判断したのだ。
「頑張ってね。『彼女』、とやらを救うために。わかってると思うけど『彼女』を救うというのは他に犠牲者を生み出すということだ。君が彼らを間接的に殺すんだ」
超然とした口調。やはりというか、命の数をそこまで重要視するタイプではないらしい。あるいはそこはもう擦り切れたのか、なんのなのか。僕にとっては有利な状況ではある。もやもやしたものは残るけども。
「……わかってます。それでも、やらなきゃいけないんです」
僕を射貫くように見つめる目。しかし彼は、僕を認めていた。肯定していた。
「実は君に魂の成長と、魔素の適合が起きたている。まあ、それは最初にあった時にそうなるように僕が仕込んだからなんだけどね。それでも普通なら無理だ。君の魂は本当に特殊な形だったんだよ。魔素に向き合えるだけの魂に成長したのは、君が苦しんであがこうとしたからだ」
「そんなことで?」
「大事なことだよ。まあ、君は僕みたいなことができる。時間は限定的だけど、ここに帰ってくるまでの時間は続くだろう」
暗い空間が破れていく。辺りは無の領域へ。
「いってらっしゃい」と言う声がする。
ごめんよ、と胸の中で、彼女の代わりになる犠牲者に言う。誰にも届かない声だった。彼女を救うという僕のエゴで、彼らを殺すことになる。それでも思い出があったから。彼女が狂おしいほどに大切だったから。
『姉さんを救ってくれ』と卓也は言った。どうあがいたってやることはひとつだ。
だからといって僕の行動が許されるわけではない。それを痛いほどに肝に銘じる。僕は罪を背負っている。
どうしてもそのことは気がかりだった。だがどうすることもできなかった。
だが、それが現実だ。
だから「ごめん」と僕は言う。誰にも届かない。許されるわけではない。それでも、僕は謝り続ける。そういうものだった。
――視界が開ける。
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