女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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128:名無しNIPPER[saga]
2017/09/09(土) 23:08:23.78 ID:43vqk7Yd0

「大丈夫か?」と隊長が言う。

 震えながら一番は頷いた。
 隊長が周囲を見渡す。

「すこし休もう。思えば休憩なしに進みすぎた。それと……状況の整理だ。おまえ、名前は?」
「卓也……です」
「わかった。では卓也。おまえはどうやってここに来た? 何のために? 質問は急かさん。だが慎重に答えてくれ」

 緊張が走る。卓也は信用できる、と僕は訴えたがそれが信用されたわけではない。僕は彼がそんなことをする人物ではないと知っているし、彼には理由もないとわかっている。だがそれは、皆が思うことではない。

「……俺は、祐樹さん……今あなたの隣にいる彼を追ってここに来ました。来た方法は……処理係の目をくぐってきました。あまり処理係の人たちは長居したくなかったのか、そこまで難しくなかったです」

 隊長が天を仰ぐ。

「あいつらふざけやがって……! そこはわかった。たぶん本当のことを言っているな。だが動機について詳しく聞きたい。死ぬ可能性が高いんだぞ? そもそも許可を取らずに強引にくるメリットもない。さらに言えばあと三年もたてばもっと死亡率の低い状態で地表の探索もできただろうに」
「俺は…………」

 卓也はためらった。僕の顔を見ている。だが言うしかない。選択肢はそれしか存在しない。卓也は諦めたようなため息をつく。

「祐樹さんが……死のうとしていると思ったんです。祐樹さんが地表の探索に行くと知ったのは出発の前日でした。それで、こんな強引なことをしました」

 どきり、とさせられる。
 僕が、死のうとしているように見えた。たしかに……卓也に最後に会った時はそういう精神状態に近かったかもしれない。
 卓也はおそらく嘘を言っていない。地表に行くのを知ったのは出発の前日だというのもそうだ。地表の探索が行われるのはレジスタンスのメンバーなら知っていた。だがメンバーについては公表されていない。
 隊長が僕のほうを見る。

「どういうことだ?」
「いろいろあったんです。今はそんなことはありませんよ」

「そうか」と隊長は言った。

 そして卓也に向き直る。

「では次の質問に移ろう。卓也、ここに来る途中ワイヤーが切れている場所を見なかったか?」
「……え」

 一拍をおいて、卓也が絶句する。彼は知らなそうだ。

「俺は今あるワイヤーのあとを辿ってきました……見てません……すみません」
「……そうか」

 全て振り出しだ。結局、なにもわからなかった。
 こわごわと卓也が聞く。

「ワイヤーが切れてるっことは……どうやって帰るんですか?」
「どうしようもない。我々は死にかけだ」

 皮肉っぽくそう言った。隊長もあまり機嫌は良くないようだ。
 他の皆も遅れて頷く。卓也の顔が青白くなっていく。

「……了解です」


 ◇


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