女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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125:名無しNIPPER[saga]
2017/09/09(土) 23:06:20.96 ID:43vqk7Yd0

 一番が無理やり振りほどく。
 もう一度走ろうとして……やめた。
 二番の表情。泣き出しそうな顔。

「……すまない」と一番が言った。

 誰もが、同じだった。皆が混乱している。恐怖に怯えている。ワイヤーは生命線だ。……死ぬかもしれない。
 やれやれ、と平静をよそった隊長が首を振る。

「魔素で死ぬかと思ったが、帰れずに死にそうだなあ」
「隊長、食料は十分すぎるほどあるのでちゃんとさまよって魔素で死ぬかもしれませんよ」

 ははは、と三番は笑った。
 皆が平静ではなかった。しかし、やるべきことをやるということだけはわかっていた。
 次第に落ち着きを取り戻していく。

 ……それでも、恐怖は残る。
 隊長が案をまとめ始めた。

「風でワイヤーの向きが変わってしまっている。が、ひとまず我々は真っすぐ進んできたはずだ。だからそこを逆に行こう。それでもやはり、距離が距離だ。目的地からはずれる可能性が高い。……我々はトランシーバーが届くぎりぎりの距離を保ちながら広がって進んでいく。ワイヤーの捕捉を続けるんだ。砂が積もってワイヤーは見にくいが……目を凝らせとしか言えんな」
 方針は固まった。確実性はない。完全な運頼みだ。おまけに勝ち目が高くない。

 僕らが出発した地点には旗が立っている。高めのものではあるが、砂と霧という最悪の組み合わせでは見つけることは難しい。
 足跡はほとんど消えていた。激しすぎる砂嵐のせいだ。頼りはワイヤーのみとなる。引っ張りすぎるとワイヤーが切れた場所からこちら側が離れるので注意をしなくてはならない。
 歩き始める。最初はあまり広がらない。ワイヤーは同じような道筋を描いているからだ。
 僕らは各々の考えを語る。

「五人全員のワイヤーが切れるなんて変だ。そもそも簡単に切れるものじゃないのに」
「人為的? なわけはないはずだよな? あまりにも得する奴がいないし、レジスタンスのメンバーぐらいしかできないとなるとますます損しかしなくなる」
「とれあえず人為的なものと仮定すると、俺たちに致命的なダメージを与えるなら出発してすぐの場所ではなく、中間あたりで切らなくてはならないな。出てすぐで切ったなら帰れてる目算が高くなるから。しかもそいつが帰還して、俺たちが戻らなかったら犯人だと思われるにきまってる。人為的、ってのはなさそうだ」
「じゃあ、なにが?」
「トカゲの進化を見る限り、ワイヤーも噛み千切る生物がいてもおかしくないんじゃないんだしょうか?」
「おかしくはない、が、五本分もか?」
「それは……」
「珍しかったから口に入れちゃったんじゃね?」
「くそが」

 苛立ちが継続している。みんな自分の中にある恐怖を自覚しているのだろう。だから、それを誤魔化すために、見ないために、怒る。雰囲気は非常に悪い。
 考えに思いを張り巡らせる。だがいくら考えても、答えは出なかった。

 ……だが。


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