43: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2017/08/26(土) 18:55:14.17 ID:JgS4ljCho
千歌さんはわたくしに叱られてシュンとしている。
二人とも黙り込むと静かだ。ピチョン。天井の水滴が湯船に滴って、音が響く。
ダイヤ「……そういえば、最近は鞠莉さんからも胸を揉まれなくなりましたわね」
わたくしはふと、そう呟く。
ダイヤ「きっと、貴女がいるから」
そう言いながら、ちゃぷちゃぷと静かに音を立て、千歌さんのすぐ横に腰を落ち着ける。
千歌「……ダイヤさん?」
ダイヤ「女同士なら、日常でこうして触れ合うのもそこまで変なことではないのに」
湯船の中でわたくしは自らの手を千歌さんの手と繋ぎ、指を絡める。
ダイヤ「……貴女に触れている手が熱い。……貴女の触れる手が熱い。……貴女と触れる身体は心は、違うんだと。」
千歌「……」
ダイヤ「……わたくしたちは違うんだと」
千歌さんの肩にこてんと頭を預けて、そう言った。
千歌「違う……かぁ」
ダイヤ「でも、好きなの……。貴女が……貴女だけが……」
千歌「……うん。」
ダイヤ「……わたくし、生まれてからずっと、黒澤家の長女で、当たり前のように習い事をこなして、政に顔を出して。そしていつか誰とも知らない人を婿に取って。黒澤の跡を継いで行くんだと思っていた。」
千歌「うん」
ダイヤ「考えたことがなかった。自分の代わりが必要とか、自分がその立場から降りるとか。」
絡められた指に力がこもる。
ダイヤ「……わたくしがいなくなったら、どうなるのか。その尻拭いを誰がするのか……考えたことがなかった。」
千歌「……うん」
ダイヤ「わたくしが継ぐの当たり前のことだと思っていたから」
千歌「……」
ダイヤ「いつの日か、ルビィに言われたことがありますの。『本当に嫌だったら家出しちゃえばいいんだよ』と」
千歌「……うん」
ダイヤ「冗談だとわかっていても、少しだけ胸が軽くなったのを覚えています。……でも、いざしてみようと思ったら、足が竦んだ。」
68Res/88.42 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20