千歌「──あの日の誕生日。」
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4: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2017/07/31(月) 23:34:10.38 ID:qA4i4zbEo


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梨子「千歌ちゃん、結局パーティ出来そう?」


早朝、弁天島までの道すがら、私の顔を覗き込むようにして梨子ちゃんが尋ねて来る。


千歌「うん。お昼なら大丈夫そうだって。お客さん、お昼の間は沼津市内を巡る人が多いみたいであんまり大騒ぎしなければ、千歌の部屋でなら大丈夫だってさ」


夏休みも始まり、旅館が人でごった返している。

その上、学校もないため、私の誕生日は基本的には祝われない。

もちろん、友達からお祝いのメールや電話は来るし、お誕生日会の話が出ることも少なくはない。

だけど、旅館にとって長期休暇は繁忙期も繁忙期。

お姉ちゃんやお母さんが忙しく働きまわってる中で誕生日パーティをするのもなんだか気が引けて、誕生日パーティをやったことは実はほとんどない。

でも、今年は──


梨子「そっか、よかった……。最初、誕生日会の提案を断られたときはびっくりしたよ」

千歌「あはは、ごめん……。家柄的に毎年誕生日はお祝いしてる暇がなくって、反射的に断っちゃったんだぁ」

梨子「旅館だもんね。ご家族は何か言ってた?」

千歌「んーん。お客さんの迷惑にはならないようにって釘刺されただけだったよ。」

梨子「そっか」


弁天島まで家から20分ちょっと。

内浦湾を眺めながら、歩く散歩道は早朝だと言うのに、日に照らされて、もうこの時間でもすでに少し暑いくらい。

ただ海からの風が程よく吹いていて心地よかった。


梨子「でも、意外だったな」


言葉数少なめに散歩を満喫していたら、梨子ちゃんが唐突にそう漏らした。


千歌「ん、何が?」

梨子「誕生日会のこと。千歌ちゃんだったら忙しくっても、祝って欲しいってダダこねるかと思ってたよ」

千歌「あはは、確かに普段のチカ見てたらそう思うかも」

梨子「あ、自覚はあったんだね」


梨子ちゃんの軽い皮肉を受け流しながら海に目を配らせる。

そこには朝日に照らされた淡島が存在感を持って鎮座していた。

──果南ちゃん、今日もお仕事してるんだろうな。

この光景が、ワードが、私にあることを思い出させる。




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