【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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8: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/06/30(金) 23:32:25.39 ID:DzD82Pjh0
 四人は菜々の部屋の玄関からアパートの共用廊下に出る。
 外はすっかり暗く、秋へと近づく空気が四人の頬をくすぐった。

「過ごしやすい季節になってきたわねー」

 早苗が言いながら、共用廊下の欄干にもたれかかる。
 酔いの回った顔でしなだれる早苗の姿に、比奈は同性ながら強い色気を感じた。

「夜も遅いので、声は小さめにお願いしますね」

 菜々があたりの家々を見回して、釘を刺した。

「みんな、ほら、見て」早苗と同じように、欄干に体重を預けた瑞樹が言う。「星がすごく綺麗よ」

 夏から秋に変わりゆく夜の空は、綺麗に晴れて、月と星々が輝いていた。

「ほんとっス。月もきれいで、いい天気っスね」

 四人はしばし、無言で星空を眺める。
 ドラマのワンシーンみたいだと、比奈は思った。

「アイドルに転向するときね」瑞樹が空を見ながら言う。「もちろん悩んだわ。歳のこともそうだけど、転向して本当にやっていけるのか、私は安易な選択をしようとしてるんじゃないかって。人生を棒に振るかもしれないって、怖いとも思った。そのときも、夜空を見上げてたわ」

 瑞樹はふふ、とおかしそうに笑ってから、続ける。

「そしたらね、急に吹っ切れたの。宇宙から見下ろしたら、私なんてすごくちっぽけな存在じゃない? 果てしない宇宙の片隅にこの地球はあって、地球には途方もない数の命があって、そんななかのちっぽけな一人にすぎない私が悩んだって、大したことじゃないって。それなら、私は私のやりたいって思ったことに突き進んでみたほうがいいって、思えたのよ」

「あー、なんだか、瑞樹ちゃんらしいわねー」早苗は菜々の部屋から持って出た自分のカップを口に運ぶ。「でも、あたしも同じかな。スカウトされて、警官かアイドルか悩んだけど、自分の人生だから、やってみようって思ったわ。悩むってことは、悩むだけの魅力があるってことじゃない?」

 そうして、早苗はカップに残ったビールをぐいと煽ると、にっと笑った。

「理由なんて、自分が納得するためのものにすぎないのかもしれないわ。やってみたいと思ったから、やってみる。私はそうするわ。比奈ちゃんも、せっかくアイドルになったなら、納得がいくまでやってみたらいいんじゃないかしら?」

 瑞樹に言われて、比奈は少し考えてから、穏やかな顔で空を見上げる。

「……そうっスね。アタシは……理由を探そうとしすぎてたのかもしれないっス。やってみたい気持ちは確かなんスから、やってみるのがいいかもしれないっスね。なんだか、巻き込まれ系の主人公みたいっスけど」

 言って、比奈はへへ、と笑った。





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