【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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7: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/06/30(金) 23:30:13.26 ID:DzD82Pjh0
「……ありがたいお話だったっス。なんだか、ほっとしたっス」

 比奈も表情を崩して微笑む。

「なぁにぃー? ひょっとして今日来たときに先輩からシメられると思ってた? もー、そんなわけないでしょー! むしろ悩みとかあったらあたしたちがなんだって聞いちゃうんだから!」

 早苗は比奈と腕を組む。

「あ、ずるーい早苗ちゃん、ミズキも混ぜなさーい!」

 瑞樹が早苗と反対側の比奈の腕をとった。

「あ、あはは……菜々さん、どうしましょう」

「うんうん、微笑ましくてナナは眼福ですよ!」

 比奈が困った顔で助けを求めるが、菜々は嬉しそうに頷くだけだった。

「でも、実際にアイドルをやってて、困ったり迷ったりしたこと、あった?」

 瑞樹が比奈に尋ねると、比奈はふっと、ちゃぶ台の上に視線を落とす。

「アタシは」比奈はひとつ呼吸してから続ける。「アタシがいま、アイドルをしてるっていう事実が、まだ実感できてないっス」

 すこしのあいだ沈黙が流れて、比奈は続けた。

「アタシはスカウトされてアイドルをすることになったんスけど、その前に、オーディションに応募して、落選してるっス。応募したのは仲間うちの罰ゲームみたいなもので、応募書類も写真も、合格なんて全然狙ってない、適当に作ったものだったっス。けど、落選の薄い封筒が届いたとき、正直アタシはすこしだけ、ショックだったっス」

 比奈は座布団に正座する。瑞樹と早苗は比奈に捕まっていた手を離し、両側から比奈を見つめていた。

「なんででしょう。物語のヒロインになり損ねたからっスかね……いまだに、ショックだった理由はわかんないっス。そんなときに、いまのプロデューサーにスカウトされて、そのときは勇気が出なくて断ろうとして、茜ちゃんに背中を押されて、アイドルになったっスけど……落選からワンチャンもらって、物語のヒロインになるチャンスをつかめたはずなのに、今もどうして、アタシなんかがアイドルになれるって思われたのか……」

 比奈は困ったような顔で頭を掻く。

「プロデューサーの話だと、アタシを拾い上げようとしてくれた人は、過労で療養中らしくて、今のプロデューサーはそれを引き継いだ立場っス。だからアタシは今も、どうしてアタシをアイドルにしようと思ってくれたのか、アタシのなにがいいって思ってくれたのか、聞くこともできてなくて」

 比奈は三人を順に見る。

「一緒に活動してる皆は、一生懸命で、キラキラしてるっス。一方でアタシは、ユニットの中じゃ一番年上なのに、まだアイドルやってる理由も見つけられてないままで……それが悩みっス……情けないっスね、へへ」

「そっかぁー、年上は辛いわよねー」

「ええ、わかるわ」

 早苗と瑞樹がうんうんとうなずく。

「ライブに出ればわかるかと思ってたっス。はじめて出たライブはすっごく熱くて、ドキドキしたっスよ。でも……まだ、アタシはどうすればいいか、わからなくて……だから先輩方に聞いてみたいっス。アイドルになるのに、迷ったり悩んだりしたのか、どうして、アイドルになろうって思ったのか」

「どうして、ですか……」

 つぶやいたのは菜々だった。真剣な表情で、比奈を見つめ返している。
 空気がほんのすこし重たくなった。

「んーっ!」

 瑞樹が明るい声で伸びをする。それで、場の雰囲気を破った。

「ねえ、ちょっと、表にでてみない?」

 瑞樹は玄関を指さす。

「外……っスか?」

 比奈が言うと、瑞樹は大きくうなずいた。



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