【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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6: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/06/30(金) 23:25:54.59 ID:DzD82Pjh0
「ふー、美味しかったわー! もう、ロケだと高級なお弁当の前でもアイドルで居なくちゃいけないから、やっぱり誰にも気兼ねしないで食べれるのが一番よね!」

 瑞樹はおおかた空になったすき焼きの鍋を前に満足気に言い、ビールを自分のカップに注ぐ。
 当初は瑞樹や早苗のカップが空くと比奈が気を遣って注ごうとしていたのだが、瑞樹が気を遣わなくていいと断った。
 比奈はそれでもはじめのうちは酌をしていたが、やがて考えを改めた。
 注げば注いだだけ二人が呑んでしまうからだ。

 時刻は二十一時を回っていた。カーテンの隙間から見える外はすっかり暗くなっている。
 一方で早苗と瑞樹は酔いが回るほどにますます明るくなっていた。

「ねぇ、比奈ちゃんはどう? アイドル、デビューしてみて」

 瑞樹は比奈にそう言うと、カマンベールチーズのかけらをつまみ上げて、あーん、と声を出して口に放り込み、幸せそうに味わう。

「なんなのその質問、面接じゃないんだから、もうー」

 早苗はそう言ってけらけら笑う。
 もはやなんでも面白く聞こえるらしい。赤い顔をして、座布団の上でゆらゆらゆれていた。

「どう……っスか」比奈はカップを両手で持って、しばし考える。「……プロダクションのアイドルの皆さん、思ったより優しくて……意外だったっス」

「意外、ですか?」

 すき焼きの鍋とカセットコンロを片付け、ちゃぶ台を布巾で拭いていた菜々が比奈のほうを見る。
 比奈はうなずいた。

「アタシ……もっと、アイドル同士はピリピリしてるんじゃないかって思ってたっス。その、アイドルはお互いに……その……」

「ライバルとか、敵同士ってことかしら?」

 口ごもった比奈の代わりに、瑞樹が続けた。
 比奈は少し迷ってから、小さく「そうっス」と肯定する。

「ふぅーん?」瑞樹は興味深そうに微笑む。「どうかしらね、菜々ちゃん?」

「はっ、ええっ!? いや、ウサミン星は平和主義なので、ナナはそんな、敵だなんて」

 菜々は急にふられてしどろもどろになる。

「そんなふうに考えたら疲れちゃうわよー?」

 早苗はミックスナッツの缶からマカダミアナッツを選んで口に放り込む。

「でも、比奈ちゃんの言うことも一理あるわよね。お仕事のパイが増えないなら、アイドルが増えれば増えるほど、私たちはお仕事をもらうのが大変になるわ。でも……」瑞樹はちゃぶ台に頬杖をついて、カーテンのかかった窓のほうを見つめる。「誰かを、てーい! って蹴落としても、私のところに仕事が来るっていうわけでもないのよね」

「そーねぇ、たしかにそうだわ」

 早苗はうなずきながら、空になったカップに缶ビールを注ごうとする。
 缶の残りが少なかったらしく、数センチも注げずに空になってしまった。
 菜々が冷蔵庫から新しい缶を取り出し、早苗に手渡す。
 比奈は真剣な眼で瑞樹を見ていた。瑞樹は続ける。

「適材適所、って言うでしょ? 同じアイドルでも、私と比奈ちゃんのアピールポイントはきっと違うわ。だから争うより、自分のいいところを伸ばしながら支え合うほうが私はいいと思うの。もちろん、競合したところは本気の勝負よ? オーディションで比奈ちゃんと一緒になったら、全力でぶつかるわ!」

 瑞樹は強い目で比奈に微笑みかける。
 それから、ふっと表情を崩す。

「それでもし落選しても、自分の力が足りなかったって考えるの。自分以外の誰かがいなければ、自分が勝てたなんてふうには考えたくない……でもね? アイドルとして……いいえ、アイドルだけじゃない、私はアイドルになる前には局アナをやっていたんだけれど、そのときも、お仕事をたくさんもらえるかどうかは結局……人となりだったわ。アイドルとしてどんなに美しくて、歌が上手くて、お仕事ができても、スタッフや共演者のみんなが一緒にお仕事をしたいと思えるような人じゃないと、どこかで続かなくなってしまうの」

 瑞樹の話に、いつのまにか菜々も早苗も、真剣な表情で聞き入っていた。

「『人格だよ。』……ってコトっスか」

「そういうこと! だから、みんなで仲良くお仕事して、楽しくワイワイやるほうがいいのよ! ストレス溜めないほうが、お肌にだってだんぜんいいわ!」

 瑞樹は一転して明るく言う。



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