【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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◆Z5wk4/jklI
[saga]
2017/06/30(金) 23:22:14.91 ID:DzD82Pjh0
「あたしが言うのはちょっと変かもしれないけど、ほんとに気を遣わなくていいのよー?」早苗が缶ビールとペットボトルのお茶をちゃぶ台の上に置く。「じゃあ、さっそく乾杯しましょ!」
「えっ、もうっスか? ほかの皆さんは……」
「瑞樹さんも楓さんも、お仕事が終わってからで、楓さんはかなり遅くなるみたいですよ」
菜々が言う。
「ね? 瑞樹ちゃんの予定だとそろそろってきいてるけど、この業界じゃスケジュールが押すこともざらだから、こういうときはお互いに待たないってことにしてるのよ。菜々ちゃん、コップは戸棚?」
「あ、今日はお客さんが多いので、こっちにしてください」
菜々はビニール袋から取り出したプラスチックのクリアカップと油性ペンを早苗に渡す。
早苗はクリアカップを三つちゃぶ台に並べてから、自分の分のクリアカップに油性ペンでさらさらとなにかを書き入れた。
「あ、そういうルールなんスね」
「見分けをつけるためよ」
早苗は油性ペンを菜々に回すと、缶ビールのプルタブを起こす。
プシュと小気味いい音がして、早苗はフゥー、と嬉しそうな声をあげながら、黄金色のビールをカップに注いだ。
比奈は早苗のクリアカップを見る。クリアカップには滑らかな筆致で『片桐早苗』と書かれていた。
ファンには垂涎もののアイドルの直筆サインが、百円ショップで買ったであろうクリアカップに気軽に書き入れられている光景は、ふたたび比奈に新鮮な違和感をもたらした。
油性ペンが比奈の手元へとやってきた。比奈は二人にならって、クリアカップに自分のサインを入れる。
しばらく前に考えた、アイドルとして活動する比奈としてのサインだった。
「へぇー、かわいいですね!」
キャラクターのイラストがあしらわれた比奈のサインを見て、菜々が感心したように言う。
「へへ……まだ描きなれないっスけど」
「そのうちサラサラ書けるようになるわよー」早苗はお茶のペットボトルのふたをひねる。「菜々ちゃんはお茶よね。比奈ちゃんは?」
「あ、アタシもお茶で……菜々さんは呑まないんすね」
「なに言ってるのよ比奈ちゃん、十七歳にお酒呑ませたら即タイホよ、タイホ!」早苗は真剣な顔でそう言い、比奈のカップにお茶を注ぐ。「はーい、どうぞー、それじゃ……」
三人はカップを手に持つ。
「おっつかれー!」
「おつかれさまでーす!」
「おつかれさまっス」
こつ、とプラスチックのカップを合わせて、三人は乾杯した。
早苗は注いだビールの半分ほどを一口で呑むと、心底幸せそうに「ぷっはー!」と息をついた。
そのとき、菜々の部屋のチャイムが鳴った。
「あ、はーい!」
菜々が玄関へ走っていく。ドアスコープを覗いてから扉を開けると「おじゃまします」と言いながら、瑞樹が入ってきた。
「こんばんはー、あら、比奈ちゃんも来てくれたのね、ふふ、今夜は楽しみましょうねー!」
「あはは、お手柔らかに……お先にいただいてるっス」
比奈は瑞樹に向かって会釈をする。
「やっほー、いまはじめたとこよー、乾杯しちゃったけど」
「あら、じゃあもう一回しなきゃよねー?」
瑞樹は言いながら、細長い紙袋から淡いグリーンの瓶を取り出す。
口のところを紫の包み紙と赤い紐で丁寧に包んだ、高級そうな日本酒の瓶だった。
「ちょっと、なにそれ!」
早苗が身を乗り出す。
「うふふ、今日の仕事先のディレクターが差し入れてくれたの。滋賀のすっごくいいお酒よ!」
瑞樹は瓶を顔のあたりまで持ち上げると、ぱちんとウインクした。
「まぁまぁ瑞樹さんも、まずは手を洗ってから、もう一回乾杯しましょう!」
菜々が座布団を薦める。瑞樹は「はーい」と少女のように言い、洗面台へと向かった。
瑞樹は戻ってくると、ジャケットと荷物を置いて、座布団に正座する。
そうして、二度目の乾杯が行われた。
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