【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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4: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/06/30(金) 23:20:01.46 ID:DzD82Pjh0
「ごめんねー、重くない?」

「大丈夫っス。それより早苗さんのほうこそ、そんなにたくさん、重いんじゃ……」

「あたしは大丈夫よー、このくらいなら!」

 早苗は白い歯を見せて笑う。
 二人は買い物を済ませたあと、菜々の自宅までの道中を歩いていた。早苗は比奈の二倍近い重さの荷物を持っている。

「でも、さすがに悪いっス……」

「いーのいーの、たくさん呑むひとがたくさん運ぶから! それに今日は、比奈ちゃんはじめての参加でしょ? ゲスト扱いよ!」

「そうスか……すいません」

 ずんずん歩いて行く早苗の後ろについて、比奈も歩く。歩きながら、早苗の姿を見ていた。
 現役のアイドルが、スーパーの買い物袋を提げて住宅街を闊歩している。
 再びの日常と非日常が混じる違和感に戸惑いながら、比奈よりも背丈が小さいはずの早苗の後ろ姿は、比奈にとっては自分よりも大きいものに感じられていた。


 スーパーから十分程度歩いた、閑静な住宅街の中に、菜々の自宅はあった。

「ここ、スか……」

 比奈はその建物を見て、呟いた。
 小さな……あまりにも小さな、アパート。
 アイドルになりたてのあの日に見た、ファンに囲まれて、ライブではサイリウムの光に包まれる安部菜々――アイドルの住まいとは、とても思えなかった。

「そうよー、二階なの……よいしょっ!」

 早苗は大量の荷物を持って、階段を上がっていく。比奈もその後ろに続いた。

「戻ったわよー!」

 ドアベルを鳴らして壁ごしに声をあげる早苗。
 ドアの向こうから足音が近づいてきて、玄関の扉が開いた。

「おかえりなさいませー!」

 菜々が顔を出した。

「連れてきたわよー」

「ありがとうございます、比奈ちゃん、いらっしゃい!」

 菜々はにっこりと笑う。そのスマイルはあの日見たアイドルのときのそれだが、服装は当然私服、トレーナーにジーンズ姿だ。

「お招き感謝っス。おじゃまするっス」

 比奈は早苗に続いて中へと入る。

「ウサミン星へようこそー」

「ああっ、早苗さん、それはナナのセリフ……あ、比奈ちゃん、くつろいでくださいね」

「あ、ハイ」

 比奈は部屋を見渡す。四畳半のワンルーム。中央に丸いちゃぶ台。布団は窓の近くに綺麗に畳まれている。
 家具や小物は全体にホワイトや淡いピンクでまとめられていた。
 一角にやや年代物の大きなタンスがひとつ。備え付けか、実家から持ってきたものか。
 それで、菜々の住まいは全部だった。

「菜々ちゃーん、ドリンクは冷蔵庫にいれちゃうわよー」

「はーい、あ、お野菜とお肉はこっちにくださーい」

 菜々はエプロンをつけて、早苗から食材を受け取っている。

「比奈ちゃんの持ってくれてた袋もこっちにちょうだい」

「あ、ハイ、アタシも仕込みとか、手伝うっスよ」

「あー、いいんですよー!」菜々は比奈に向かって手を振る。「今日ははじめてでお客さんってことで、気を遣わないでくださーい」

「でも……」

 菜々に買い物袋を渡した比奈がその場に立ち尽くしていると、菜々は座布団をちゃぶ台の周りに並べ、比奈の両肩に手をかけて、座布団に座らせる。

「お気持ちだけでじゅうぶんです! それにほら、キッチンが小さいので……二人は立てないんです」

 言われて、比奈はキッチンをみる。
 言われれば確かに、二人がそこに立てば、逆に使いづらくなってしまいそうな広さしかなかった。



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