【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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68: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/07/28(金) 23:14:02.14 ID:23vyEUVD0
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 プロダクションを出た俺は、さっそく茜の電話番号に発信してみた。応答はない。
 二度目のコールも留守電への接続になってしまい、俺は電話での接触を諦める。

 プロダクションの前で暫く考えたあと、俺は街中を河川敷へと向かうことにした。
 茜が河川敷に来る、ということに、確信があったわけではなかった。

 しかし、茜は家に閉じこもって冷静に考えるようなタイプではない。
 それなら、きっと普段の生活で使う場所を探すのがいい。
 今日は休日だから、学校に行くとは思えない。
 それなら走り込みのコースになっている、あの河川敷で待つのがいいだろう。

 俺が走った河川敷へ向かう道は、まだ未熟だった数か月前の俺が辿った道だった。
 急にプロデューサーをやることになって、やる気なく形だけのスカウトを行っていたあの頃の。

 もしも――もしも、あのとき茜に出会わなかったら、きっと今も俺は、あの頃のまま、適当に仕事をしていただろう。
 それはそれで楽な人生なんだろうが、もうその頃に戻りたいという気はしなかった。
 プロデュースすることの愉しみを、知ってしまったから。

 河川敷に到着した俺は、記憶をたどり、以前にも通った芝生をのぼって土手の上の遊歩道に立つ。
 午前の涼しい時間。散歩する人々や、自転車に乗る子ども、眼下に見えるグラウンドではサッカーの試合が行われている。
 俺の不安な心中とは裏腹に、さわやかな光景だった。

 俺は遊歩道の遠くを見て――俺の心臓が大きくひとつ鳴った。
 土手の向こうから、近づいてくる人物。真っ赤なポロシャツを着ている。

 ツイている。これも、いまも胸元のポケットに入っているさいきっく・わらしべ人形のご利益だろうか?
 堀裕子。ひょっとすると、本物のエスパーなのかもしれない。

 走ってくる赤いポロシャツの少女――茜は、俺の姿を認めると、そこで急激にスピードを落とし、クールダウンのためか、ゆっくりと歩いてこちらに近づいてきた。

「茜!」

 俺は茜に向かって手を振る。
 しかし、茜は俺から十五メートルほどの距離をあけて、止まった。

「茜……?」

 俺の姿を見て、茜は辛そうに笑って、目を細める。

「プロデューサー……かえって、きてくれたんですね」

「ああ!」俺は茜の表情と開いた距離を疑問に思いながらも声をかける。「茜、みんな心配してるぞ、美城プロダクションに戻ってこい!」

 俺の呼びかけに、茜はぎゅっと目をつぶって、両手を降ろしたまま握り締めて、首を横に振った。
 俺は茜のほうに一歩、歩み寄る。

「……茜? どうしたんだ、ユニットのことなら」

「来ないでください!」

 遮るように茜に言われて、俺は立ちどまった。
 茜は両手で顔を覆って、また首を横に振る。

「私、行けないです! ……行けません!」

 茜は悲痛な声をあげた。泣いているみたいだった。



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