【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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63: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/07/28(金) 23:03:34.56 ID:23vyEUVD0
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 年代物のレジを乗せた年代物の机、年代物の椅子、年代物の酒屋。……実家。
 俺は頬杖をついて、店内から外を眺めていた。
 幼少の頃から代わり映えしない景色、ただ俺の背が伸びるにつれて視点だけが、あの頃よりも高くなっている。
 高くなりきったあとは、視界が少しずつ古くなっていくだけだ。

 最寄りの新幹線の駅からさらに在来線、バスと乗り継ぎ、都心の借家から片道およそ七時間。
 時の止まったような地元に、俺は帰ってきていた。
 しばらく仕事を休むと言って急に帰ってきた俺を、両親は特に疑問を呈するでもなく受け入れてくれた。
 仕事を辞めて店を継ぐ話はそのうちするつもりだった。

 そのまま、何事もなく二日間が過ぎた。

 次の日の昼間、お袋が買い物に行くからと俺に店番を命じ、出かけて約二時間。
 こうしてずっと店の中から外をぼーっと眺めていた。親父は近所に将棋を指しに出かけている。

 外は殆ど人も車も通らない。犬や猫のほうが多く通り過ぎるくらいだった。
 都会とは時間の流れ方がまるで違う。

 この景色が嫌になる前に、なにか趣味か副業を見つけたほうがいいな、と俺はぼんやり考えていた。
 何もしないでいると、このままこの店と一緒に一気に歳をとりそうだと思った。

 スマートフォンを取りだし、真っ暗なままの画面を見て、すぐにまたしまう。
 この場所に座ってからもうこの動作を五回ほど繰り返していた。
 スマートフォンをチェックするのは手癖になっている。取り出しては電源をオフにしていたことを思い出し、またしまう。ずっとこんな調子だった。

 店番をしていても客が来るわけでもない。
 この店の主な収入は年末年始をはじめとした祝い事の注文のほかは飲食店のタンクの補充だ。
 俺は居間に戻り、朝刊を取ってくる。番組表を眺めた。番組編成は都会とは大きく違う。

 ぼんやりと考えていた。茜たちの出演するような番組は見れるだろうか。
 関東ローカル局の番組は難しいだろう。ネット配信でやっていればいいのだが。
 ――と、そこまでを考えて、俺は新聞を畳んで置いた。

 プロダクションから物理的な距離は置いた。精神的な距離も置いて、それに慣れたほうがいい。
 俺はもうプロデューサーではない。茜たちのことを考えられる立場ではない。……考えてはいけない。

 ――茜ちゃんも春菜ちゃんも裕美ちゃんもほたるちゃんも、プロデューサーは、置いていっちゃうんスか――

 比奈の言葉が頭に蘇る。茜たちを置いて行った。
 それは決してネガティブな感情からではないが、置いて行ったことは確かだ。

 比奈は俺の思惑をみんなに明かすだろうか。あいつらに、嫌われるだろうか。
 ……嫌われるだろう。それを覚悟してやったことだ。俺は溜息をついた。
 覚悟してやったはずなのに、俺の頭からは五人の顔が消えない。

 ……仕方がない。これでよかったんだ。
 何度頭の中で繰り返したかわからない言葉を、もう一度自分に言い聞かせた。

「はー、つかれた」

 店先から声が聞こえて、机に突っ伏していた俺は体を起こして姿勢を正す。お袋だった。
 客ではないとわかり、俺は姿勢を崩し、頬杖をつく。

「ただいまー」

 お袋は買い物袋――花柄のエコバッグを店先のボックスの中に降ろす。
 お袋は財布以外は持たずに出て行ったと思ったが、あんなバッグ持っていただろうか、と俺はぼんやり考えていた。

「なーに、辛気臭い顔して。せっかく休んだんだからもう少し明るい顔しなさいよ」

 お袋は俺のほうへと歩いてくる。

「……たまに帰った実家でくらい気を抜いてたっていいだろ、ほっといてくれよ」

 俺は言ったが、お袋は俺の顔を覗き込む。

「あんた、なんか悩みでもあるんじゃないの?」

「……ほっといてくれ」

 同じ言葉を繰り返して、否定はしていなかった自分に気づく。

「隠したって判るのよ? あんたの母親なんだから。それでね? いいものがあるのよ。さっき駅前で、買い物袋がやぶけちゃってねー、困ってたところを通りすがった人に助けてもらったの。そのとき、一緒にこんなのもらったのよ」

「……は……?」



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