【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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47: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/07/21(金) 20:20:47.86 ID:CDK467qC0
 茜以外の四人には、すでに先輩プロデューサーからの挨拶と、引継をしたこと、顔合わせの日程を伝えるメールが届いていた。
 ユニットのメンバーでメッセージのやり取りをしているあいだに、茜にだけその連絡がきていないことがわかった。
 四人は茜に、メールアドレスを間違えたんじゃないのかとか、なにかのエラーじゃないか、送り忘れなど可能性をあげて、気にする事はないと励ましてくれていた。
 茜はそれに同意をしつつ、どこかで不安がぬぐえずにいた。

 もともと、茜たち五人のユニットは、これから引き継ぐ先輩プロデューサーが企画したもので、先輩プロデューサーが過労で倒れたことによって、今は実家に戻っているプロデューサーが急遽担当することになったと聞かされていた。
 当初のメンバーは、春菜、裕美、ほたると、スカウト予定だった比奈、それに当時未定だった新メンバーを加えての五人で、その新メンバーが茜ということだった。

 つまり、茜だけは、これから引き継ぐ先輩プロデューサーが想定していなかったメンバーということになる。
 そのことを思い出したときから、茜の心に不安が生まれた。
 もし――もし、先輩プロデューサーが、茜のことを気に入らなかったのだとしたら。詳しいことは茜には想像も及ばなかったが、もともとのコンセプトや、想定していたユニットのカラーが先輩プロデューサーの意向に合わなくて、それで連絡がもらえていないのだとしたら。

 茜だけ、みんなと一緒にアイドルを続けることが、できなくなるかもしれない――
 そう考えて、茜は自分の胸のあたりに手を当てた。不安で鼓動が早くなっている。

「なんだか、不思議ですね」

 茜はぼんやりと天井を見つめて呟いた。
 数か月前まで、アイドルになるなんて考えたこともなかった。
 人前に出て歌ったり踊ったりするなんて、やってみたいかどうかすら考えたこともなかった。
 それがいつのまにか、スカウトを受けて、アイドルとして活動することになって、レッスンや仕事を繰り返し、ライブに出て、今はこれからもアイドルをやりたいと思っている。

「私、こんなにアイドルやりたかったんですね……」

 皮肉にも、アイドルを続ける道が危ういかもしれないという想像を通して、茜はそれを実感していた。
 一人の時に、一度考えが沈みだすと、悪いほうへ、悪いほうへとずぶずぶ引きずられていく。
 みんなと一緒にユニットができなくなるかもしれない。そもそもアイドル自体続けられなくなるかもしれない。
 いや、本当は自分はアイドルなんかじゃなくて、アイドルであると勘違いしていただけなのかもしれない――

 茜はスマートフォンを置いてベッドから体を起こし、悪い想像を追い出そうと頭をぶんぶん左右に振った。
 それから、気合を入れようと、両手で自分の頬を軽く叩く。

「悪いように考えちゃいけませんね! しっかりしましょう! ボンバー!」

 茜は右手を振り上げ自分を鼓舞して、練習中のユニット曲を口ずさみながら、振りを確認する。
 しかしそれは長くは続かず、茜は部屋の真ん中に立ったまま肩を落とした。

「プロデューサー、早く戻ってきてください……」

 茜はスマートフォンのメールボックスを開いた。
 実家に帰ったプロデューサーからユニットのメンバーに届いた、最後のメールを開く。もう何度読み返したかわからなかった。
 メールには一時的に実家に帰ると書かれている。
 だけど、茜には、なぜだかプロデューサーがもう戻ってこないんじゃないかという不安があった。
 スマートフォンがメッセージの着信を振動で知らせる。比奈からだった。

『まー、明日は新しいプロデューサーとの顔合わせっス、色々不安っスけど、みんなしっかり打ち合わせしてこれからに臨みましょう』

 茜はその文面を見て、そのとおりだと思う一方で、比奈が少しドライなようにも感じた。
 けれども、すぐにそれは茜の不安がそう思わせるのだと考え直した。
 茜はもう一度、歯を食いしばって、さっきより強く両側の頬をはたいた。



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