【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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33: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/07/15(土) 00:18:07.43 ID:JPdS/Cks0
 ほたるが作っている壁は厚い。それでも、ほたるはまだ折れていない。だからこそ、アイドルでいようとし続けている。
 それなら、まだどこかに突破口があるはずだ。
 やがて、ほたるが口を開いた。

「ほんとうに、いつものことなんです。私、不幸にみまわれることが多くて、これまでも所属事務所が倒産したり、身の回りのひとが事故にあったり、病気になったり……イベントも、なにかトラブルがあったり、皆さんに迷惑をかけてしまって……」

「私たちには、特にそういうことはないみたいですけど……」

 春菜が言う。ほかの三人も頷いた。
 けれど、ほたるは首を振る。

「皆さんが私とこのまま一緒に活動していれば、悪いことが起こるかもしれない……ううん、きっと起こります」

 春菜は小さく唸って、口をつぐんだ。

「そんなことばっかりだから、出演者やスタッフさんが私が居ると不安になるのも、しょうがないんです。私が不幸だから……ごめんなさい」

 話を聞いていた裕美が眉間にしわを寄せた。

「思い込みとかじゃないのかな」

 裕美が尋ねる。ほたるは応えない。

「アタシも思い込みだと思うっスよ、アタシなんて一回落選してからの拾い上げでここにいるんスから、むしろほたるちゃんと一緒にアイドルできて、ラッキーってことにならないスかね?」

「それは、比奈さん自身の力ですよ、私なんかじゃ、とても」

 と、ほたるが言ったときだった。
 時計の音以外は無音の控室にタ、タ、と何かを叩くような音が聞こえて、俺たちは音のしたほうをみる。
 窓に、水滴のあと。

「雨……?」

 俺は窓から空を見る。さっき屋上に上がったときとは正反対に、空にはぶ厚い暗い雲が立ち込めていた。
 風は先ほどよりも強くなり、すぐに大粒の雨が窓を打ち始める。

「天気予報では雨の心配なんてないって言ってたのに……」

 裕美が立ち上がり、窓のところまで歩いてくる。
 俺はスマートフォンで天気予報を確認する。
 勢力を増した台風が急激に進路を変えたと速報があり、都内が暴風圏内に入っていた。

「やっぱり……ごめんなさい……」

 ほたるはそう言って、座ったままで頭を下げた。
 四人は、なにも言わなかった。
 俺はもうひとつ、溜息をついた。

 ほたるの不幸を思い込みに過ぎないと説明することはできる。
 たとえば所属事務所が倒産したという話だが、中小企業なら五年で八十五パーセント近くが倒産する。
 ましてや芸能界は先の読めない業界だ。普段の生活であまり倒産の言葉に触れることはないかもしれないが、実際には次々に会社が生まれ、消えていく。
 俺が美城プロダクションに所属する前の事務所も、今はもうない。

 問題なのは、ほたるに関わった人々がほたると不幸を結び付け、それをほたるが受け入れてしまっているという点だ。
 禍福は糾える縄の如しと言うが、ほたるに起こったことが幸運なのか、それとも不幸なのかはほたると周りの人々の評価次第だ。
 悪いことはもっと悪いことの回避の結果だと喜ぶことができるかもしれないし、同じように幸運を嘆くことだってできる。
 前の事務所が倒産していなければ、今の事務所に所属してはいなかっただろう。幸不幸は相対的な問題で、絶対的に評価できるものではない。
 それでも人々は、そしてほたるは自分に起こったセンセーショナルなことだけをクローズアップしてほたる自身と結び続ける。

 例えば、晴れ男の芸能人がいたとしよう。
 移動先が晴れであったり、移動したとたんにその場所の天候が崩れれば、人々は喜んでその情報を拡散する。
 けれども、それは確率論で語られることは決してない。晴れ男が出会った雨は無視される。
 そうやって、晴れのエピソードだけが積み重なり、晴れ男は晴れ男として作られ続けていく。

 それが本人をキャラクター付けるプラスの要素になら喜んで便乗すればいい。しかしほたるの場合はどうだろうか。
 少なくとも、俺の目のまえに座るほたるはずっと、空っぽな顔をしている。
 まずは場の空気を変えることが必要だと、俺は判断した。



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