【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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◆Z5wk4/jklI
[saga]
2017/07/07(金) 21:04:39.11 ID:XFMgPNzd0
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「んんー、とーっても、しっとりしたムーディーな曲だったねー。 このスタジオ、ゴーカなホテルのレストランになったかと思っちゃった! ほたるちゃん、オトナじゃーん!」
ほたるのリクエスト曲が終わり、唯はほたるに向かって目を細める。
「すいません……ラジオの雰囲気、大丈夫でしたか……?」
ほたるは恥ずかしそうに笑いながら、唯に尋ねた。唯は大きく頷く。
「ぜんぜんオッケーだよー! アゲアゲな曲もいいけどー、ゆいはスローな曲も大好きだし、リクエストしてくれるゲストさんやリスナーさんもいっぱいいるし! 憧れちゃうよねー、低い声のダンディなおじさまにエスコートされちゃってさー、あまーくささやかれちゃいたいよねー、ぎゅって手なんか握られちゃったりして?」
言いながら、唯は手を繋ぐ身振りをする。
それから、ぱちんとウインクした。
それで、ほたるはなにかに気づいたように小さく口を開いた。
ほたるは椅子の下でそっと手を伸ばし、隣に座る裕美の手に、自分の手のひらを乗せた。
机の上の資料をじっと見ていた裕美が、はっとしたようにほたるを見た。
ほたるは穏やかに、裕美に向かって微笑む。
「じゃ、スタジオのアイドルのみんながすっかりしっとりいーオンナになったとこでー、つぎは春菜ちゃん! アゲ曲の紹介の前にー、ね、春菜ちゃんは、自信失っちゃったり、アガらないときって、ある?」
「ええと……もちろん、ありました」
春菜は資料を手元に置く。
もともと大枠しか決められてないとはいえ、このことは台本にはない。唯の判断だろう。春菜なら対応できると睨んだか。
春菜は裕美のほうを見てから、話し始める。
「私、眼鏡が大好きで、だけど、それが伝わらなかったり、眼鏡の私が否定されるかもしれないことが怖くて……」
「ね、ね『ありました』ってことは、いまはだいじょーぶなん?」
「ううん、いまでも、ときどき迷うことはあります。でも、前より強くなれました。教えてもらったんです。自信がないままじゃダメだって。眼鏡は私に前を向かせてくれる、でも前を向くのは私自身です。私が眼鏡を大好きなことを、私が信じてあげなきゃいけないんだって」
「そっかぁー」唯は感慨深げに頷く。「でもわかるよー。ゆいもこんな感じだと、ふまじめとか、ナメてるとか、かるーく見られちゃうこともあってさー。でも、ゆいがいっちゃんイケてるのはゆいが一番楽しくやってるときだから! やっぱ、ゆいも春菜ちゃんも、自分らしくやってるのがいちばん最高で、みんなを楽しませられるってことだよね!」
唯は無邪気に笑う。茜たちも大きく頷いた。裕美は顔をあげ、真剣に春菜と唯のほうを見ている。
「そんな春菜ちゃんのアゲ曲は、どんなときにきいてるー?」
春菜は眼鏡の位置を正し、ひとつ呼吸をしてから話し始める。
「私は、自分が元気を出したいときに聞いてます! 私のあこがれのアイドルの曲なんです。アイドルをしていると……ううん、アイドルだけじゃなくて、みんな毎日を生きていると色んな不安があると思うんです。この曲は、女の子がなかなか自分に自信が持てないけれど、でも大好きな人への強くて純真な気持ちが溢れちゃうって詩で、前向きな気持ちをたくさんたくさん、同じ言葉をなんどもなんども繰り返して、いっしょうけんめいに前に前にって歌ってるんです。とっても力をくれる歌なんですよ!」
「よし、じゃー春菜ちゃんのリクエスト、いってみよー、ミュージックスタートー!」
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「くっくっ、これだから、ラジオってほんと、最高っすよね」
ブースの中、PAが嬉しそうに卓を操作する。
「まったく」ディレクターが頷いた。「ゲストも良ければ、なおさらね」
「いやあ、実力のあるパーソナリティと信頼のスタッフあってこそ、ですよ」俺も負けじと褒める。「けど、もう一歩……裕美には、自分の答えを見つけてもらわなきゃいけない」
俺はブースの中の裕美を見つめた。
「行け、裕美」
俺はつぶやく。
声はレコーディングブースには聞こえていないはずだった。
それなのに、裕美ははっとしたようにこちらを見た。
裕美が俺を見て、なにかを感じ取ったように、俺には思えた。
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