【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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10: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/06/30(金) 23:35:57.55 ID:DzD82Pjh0
 それからしばらく宴は続いた。

 瑞樹はアンチエイジングと言って少女のように振る舞い、早苗は自分の担当プロデューサーを電話で呼び出そうとして断られ、楓のダジャレは冴えわたっていた。
 深夜二時を回ったころになって、仕事で疲れていたであろう楓と瑞樹、そして早苗と、力尽きた者から順々に畳の上に横になり、寝息を立てはじめた。

 最後には、アルコールを摂っていない菜々と比奈が残った。
 菜々は眠る楓たちにそっとブランケットをかけながら、比奈に言う。

「お疲れ様でした。今日は楽しめましたか?」

「はい。誘ってもらって、ほんとによかったっス」

「よかった、比奈ちゃんが楽しめたなら、ナナもとっても嬉しいですよ」

 菜々はにっこり笑う。

「そういえば……菜々さんは、どうして、アイドルになったっスか?」

 比奈に問われて、早苗にブランケットをかける菜々の手が一瞬止まった。
 それから、菜々は丁寧に早苗にブランケットをかけたあと、比奈のほうに向かって正座する。
 その姿に、比奈も自然と背筋が伸びるような気がした。

「ナナは、ずっとずっとアイドルに憧れていました。……今も、ずっと……」

 穏やかな顔で菜々は言い、そこで一点、表情を崩す。

「だから、夢をかなえるため、ウサミン星からニンジンの馬車に乗って、地球にやってきたんです。トップアイドルへの道はまだまだ途中、です! キャハ!」

 菜々はそう言ってあざとくピースをして、それからまたもとの穏やかな顔に戻った。

「そろそろ、私たちも休みましょうか」

「……そうっスね。今日はほんとうに、色々おせわになったっス」

 比奈はぺこりと頭を下げる。

「いいんですよ、これで比奈ちゃんもウサミン星の仲間です。またなんでも、相談してくださいね!」

 菜々は嬉しそうに言って、微笑んだ。


「ん……」

 比奈はうっすらと瞼をひらく。
 ぼやけた顔であたりを見回して、自分が菜々の部屋に居たことを思い出した。

 窓の外はまだ薄暗い。
 左手に握っていたスマートフォンで時間を見る。朝の五時前だった。
 慣れない環境で眠りが浅かったのかもしれないと比奈は思う。

 畳の上に直接横になっていたせいだろうか、身体が固まっているように感じ、比奈は一度身体を起こす。
 伸びをしながら、部屋の中を見渡し、比奈はつぶやく。

「……すごい光景っスね」

 安部菜々、片桐早苗、川島瑞樹、そして高垣楓。
 四畳半のそこかしこに、活躍中のアイドルたちが雑魚寝している。
 アイドルにならなければ、いやアイドルになっても、そうそう見れるシーンではない。

 比奈は寝息を立てている菜々の姿をじっと見つめた。
 思い出す。菜々は「今も、ずっと」と言っていた。きっと、そのあとには「夢見ている」という言葉が続く。
 菜々は今もトップアイドルを夢見ているのだ。
 アイドルになることが終わりじゃない。アイドルを続けることが、トップアイドルを夢見つづけることが、アイドルとしての輝きになる。
 果てしない道。
 四畳半のアパート生活でも。夢と一緒なら、突き進んでいける。

「きっと、漫画と同じっスね。描いても描いても、どこかたどり着けなくて、もっと描きたくなるっス。理屈じゃなくて、やりたいと思う自分自身が大事なんスね。『夢を追って後悔するなら納得できる。夢を追わなかったことに後悔したくない』スね」

 比奈はみんなを起こさないように口の中で小さくささやく。

「どこまで行けるかわからないけど、瑞樹さんの言う通りっス。どんなになっても、この広い宇宙の中の、ちっぽけな自分の人生」

 比奈は深く息をついて、それから、ちゃぶ台の上に残っていた自分のプラカップに描いたキャラクターに、そっと指で触れた。

「アタシにどこまでできるのか、行けるところまで、行ってみましょー。……一緒っスよ」比奈は微笑む。「でも今は……『敢えて寝る』っスね」

 そうして、比奈は再び、畳に横になった。


 第七話『今夜、宇宙の片隅で』
・・・END



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