9: ◆tADl8swv.6[sage saga]
2017/06/26(月) 16:38:46.15 ID:EWHuDVZJ0
その質問に続けるように、まゆは左手のひらを此方側へ向けてきた。
……実際に彼女が指し示している箇所は、手のひらのもう少し下。
そこには、傷があった。他の誰でもない、まゆ自身がつけた傷が。
それはこの世界に抵抗した証。少女が辛くて、弱くて、どうしようもなく優しかったからこそついた傷痕。
「見てください。……ほら」
真っ赤な、帯のようだったソレは、いつの間にか。
ピンクの、目立たない膨らみに変わっていた。
「…………」
近くで見る分には、やはりはっきり分かってしまう。だが、ここまで来れば完全に治るのも時間の問題と見える。
少なくとも、部屋風呂で介抱したあの日。
初めて彼女の傷を見たときと比べると、明らかに回復へと向かっていた。
本来なら、喜ばしいことの筈なのに。
だがしかし、そのことを口にするまゆの顔は、泣きそうなほど哀しげな顔をしていた。
「……おかしいですよね。こんなキズ、本当は貴方に見せたくなんかなくて……私の中にしまいこんで、一生隠して背負っていくつもりだったのに」
『プロデューサーさんには、まゆの綺麗な部分だけを見せたかった』
いつか、彼女が教えてくれたとてもいじらしい本音。あの言が、嘘だったわけじゃない。けれど、
「嬉しかった。まゆの……ことを、認めてくれて嬉しかったんです。受け入れて、くれて……理解してくれて」
例えそれが社会一般の"普通"から外れていることだとしても。大衆から拒絶され否定されるものであったとしても。
「私にとっては大切なものになりました。だって……貴方が言ってくれたから。貴方がこれを、好きだと言ってくれたから」
傍から見たら、なんと歪な関係かと言われるのだろうか。それとも、嫌なものを見すぎた所為で、厭世的な考え方が凝り固まってしまっただけなのか。
しかし、事実としてこれだけは言えよう。
自分達は、この世でたった二人の理解者なのだと。
21Res/20.57 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20