17: ◆tADl8swv.6[sage saga]
2017/06/28(水) 13:19:09.52 ID:tToQ/3mUO
「あ……傷口、塞がっちゃいましたね」
まゆからの一言で意識が現実へと引き戻される。
…………一体どのくらいの間、そうしていたのか。
気付いた時には窓の外には暗闇が広がり、夏と言えどもすっかり夜の景色を映し出すのに十分な時刻となっていた。
「…………」
左腕の感覚は未だに曖昧だ。動くが、どこか自分の腕ではないような感触がしている。
しかし、不思議とそこに気持ち悪さを覚えることはなく、心は落ち着いたままだ。
「……今日は、ありがとうございました。
えっと……あの……ごちそうさま、です」
────。
一瞬、視界が真っ赤に染まった。
少女の端整な顔立ちが、赤黒い円形のもので埋め尽くされていく。
……想起させられる。先程飲んだ血が、少女の身体の奥に今も流れていることを。
アイドルとプロデューサー。一人の少女と一人の非人間。
甘い囁きが誘ってくる。
『"それ"を守ることになんの意味がある』
『手に入れてしまえば、ただのチープなガラクタかもしれない』
『全部捨てて、目の前の少女と────』
「───まゆ」
お互いの不自由になった左腕を見る。
二人の傷は、誰が見たって自分の方が大きく深く。
重症なのはどっちかなど言うまでもなかった。
考えることはいっぱいあった。
明日から自分達はいつものように事務所で働き始めるのだ。
非日常は終わり、日常が始まるのだ。
まゆは絆創膏程度で済むが、撮影の衣装の方は調整が必要だろう。
自分の傷は隠し通すには少し厳しいか。
間違いなくアイドルたちからは指摘されるだろうが、不慮の事故として処理すればいい。
だが、今最優先で考えるべきはそうじゃない。
何よりも大切な自分の担当アイドルが、
手を伸ばせば届くくらい、すぐ近くにいるのだから。
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