213:名無しNIPPER[saga sage]
2017/06/27(火) 12:34:11.68 ID:gtFhDy4Ho
その時、彼女に棲み着いていた魔物が顔を出す。
彼女は男を切りつけた。
価値のない人間は生きている意味がないと。
腕を切りつけられた男は彼女の表情を見て恐怖する。
その顔に感情が無かったからだ。
恐れや怒り、後悔や殺意など、男に向けられる感情は一つとしてなかったからだ。
あるのは死んで当然だから消えてくれという眼の意思だけ。
男は逃げた。
彼女はそれを見て近くのコンビニのトイレに入りナイフに付いた血を洗い流した。
理由は大切な物が汚されて嫌だったから。ただそれだけだった。
そして、なるべく人通りを避けて歩く中、背後から呼び止められる。
その人は警官だった。
いろいろと質問され、当たり障りなく答えていたが、
交番まで来てくれと催促されてしまう。
そこでまた魔物が蠢く。
無線で連絡しようとしている警官の背後に回り
ナイフをハンカチで持って躊躇なく刺した。
このとき、刺した彼に友人や恋人、家族との繋がりが視えたのなら、
彼女はその手を引いたのだろう。
しかし、彼女には一切の繋がりがない。
だからそれに気づけない。
そのせいで刺したナイフをもう一つ深く突き刺してしまう。
苦しそうな声を出して倒れる警官。
彼女はその瞳から光が失っていく様を見つめていた。
すると背後から呻き声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには少女の姿。
その向こうから悲鳴が上がり、彼女はその場を後にした。
血で染まった上着を脱ぎながら家路へとつく。
風呂に入りながら少女の顔を思い出していた。
切りつけた男でもなく、刺した警官でもなく、少女を思い出していた。
次の日、彼女は日常へと身を置いた。
それはもう二度と味わえないからと、最後に経験しておこうとそう思ったからだ。
しかし、いつまで経っても警察は迎えに来ない。
失ったナイフの代わりに手作りの人形を持ち歩くことにした。
名前を『アリス』と名付けた。
そのアリスに話しかけた。返事をくれたような気がした。
287Res/369.48 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20