80: ◆saguDXyqCw
2017/06/18(日) 22:00:45.03 ID:5UUNa7QZ0
「だから、今回も期待させたくなかったんだ。通らない可能性の方が、遙かに高いからな」
「だがまあ」と、プロデューサーは続けた。
「そうだな。なんとかするのがプロデューサーの仕事だもんな。後一週間ぐらいだけど、精一杯やってみるさ」
部屋を出る時、プロデューサーは私たちに謝ってきた。
黙っていたこと。あんな言い方をしてしまったこと。
プロデューサー失格だ。自嘲するようなプロデューサーに私は首を振った。
そんなことないよ。そう返すのが精いっぱいだった。
廊下を私たちは歩いていく。
夕焼けが全ての陰影をくっきりと映し出し、私たちの存在をこれでもかと浮かび上がらせていた。
不意にくみちーが足を止めた。
振り返ると、弱々しく俯けた顔には憂いが浮かんでいた。肩からかけたバックの紐を、怯えるように掴んでいた。
「……私、最悪だよね」
「そんなことないよ」
無意識に、プロデューサーへいった言葉をそのまま口に出していた。
だってそうではないか。二人とも想いは同じだった。それが微妙にすれ違っていただけなのだから。
「そんなことあるわよ」
でも、くみちーは受け入れなかった。
「あんな一方的に言って。私、まだまだ子供だ……」
痛ましくなるような響きに、心がきゅっとなった。慰めの言葉を探したけど、けっきょく口をつぐんだ。
くみちーに必要なのは、そんな言葉でないように思えて。
「プロデューサーに、謝ってくる」
顔をあげたくみちーは、怯えるように表情が強張っていた。
それでも、その瞳にはしっかりと決意が浮かんでいた。
「うん、そうだね」
私も行こうか一瞬悩んだけど、止めておいた。その代わりにくみちーに言った。
「せっかく撮った動画、見せてなかったもんね。ちゃんと見せてあげてよ」
「分かったわ……ありがと」
早足に戻るくみちーの背中を、私は見送った。
くみちーの長い髪が夕日に反射ししながら、宙でキレイに踊る姿に、私は目を細めた。
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