66: ◆saguDXyqCw
2017/06/18(日) 21:40:18.50 ID:5UUNa7QZ0
「練習も兼ねて、私が美味しい料理を振舞ってあげる」
「ほう、くみちーの手作りですかな。それは喜んでだよ」
「絶対おいしく作ってあげるから、期待しててよ」
どうやら約束の時間に合わせて料理の下ごしらえを終えていたらしい。
「わいわいお話しながら作るかと思ってたのにー」
「本題は私の料理じゃないでしょ? 椅子に座って待ってて。テレビでも見てさ」
その通りだ。集まる目的は話し合いの結果、今後の作戦について、と名目上なっていた。
くみちーはダイニングキッチンに向かうと、仕上げに入った。
私はその間に、室内を見渡す。
なんとなく、眼に着いた表彰状を改めてみる。どれもピアノに関連するもののようだ。
くみちーの実家はピアノの教室をやっていた。くみちーの腕前もかなりのもので、ライブで弾き語りをしたこともあった。
「凄いね表彰状。くみちーのもあるの?」
「全部お母さんのよ」
くみちーは気恥ずかしそうに笑った。
「お父さんの趣味で飾ってあるの。お母さんは見せびらかすみたいで嫌がってるけど。だからお母さん、家にお客さん呼びたがらないの」
準備の手を止めないで、くみちーが答えた。なにかお肉を焼いているようだった。香ばしい匂いと、じゅーじゅーと焼ける音が聞こえていた。
「くみちーのはなんで飾ってないの」
「私、コンクールとか出てないから。表彰状とか持ってないんだ」
「ふうん」
「まあ、出たとしても賞が貰えたとは思えないけど」
「そんなことないよ。くみちーが出場したら、絶対優勝だったって」
「適当に言って」
呆れるようにくみちーが言った。
「でもそうね。もっと出れば良かったわ。賞なんか貰わなくてもさ。誰かに聞いてもらうのは、楽しいことだもの」
165Res/216.11 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20