本田未央「Re:サンセットノスタルジー」
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132: ◆saguDXyqCw
2017/06/19(月) 00:08:04.51 ID:0mGdZrJv0


 人の気配に私は顔を向けた。

 見覚えのない中年の男性がこちらにやってきていた。

 身にまとったスーツは立派で、堂々としていた。

 首からは社員証をぶら下げていた。

 私と視線が合うと、気軽な作り笑いを浮かべて小さく手をあげた。

 私は会釈を返した。彼は自販機の前に立つ。飲み物を買いに来たらしい。


「昔はね」


 なにを買うか決めかねていた様子の彼は、唐突に言った。


「ここにタバコの自販機があった。五、六年前さ。信じられないだろうがね。それが分煙だ禁煙だで、なくなってたんだよ。以来めっきり、こっちには来なくなった」


 彼はポケットから取り出した小銭を自販機の中に入れた。


「まあ、それでよかったのかも。今の時代、シンデレラに煙草の臭いは似合わない」


 彼は首を傾け、私の方を覗き込む。なにを見ているか気になったようだ。


「ライブはまさに、シンデレラの舞踏会といったところか」

「そう、ですね」

「舞踏会に出るんだから、気をつけなきゃいけないことは色々ある。たとえばたたずまい。胸を張って背筋を伸ばして」


 自分の言葉に合わせながら、彼は姿勢を正した。私も自然と姿勢を正す。


「衣装も大事なのはもちろんだが、装飾も気をつけなきゃ。これがやっかいだ。高い宝石をこれみよがしに着ければいいわけじゃない。全体のバランスを考えなきゃね。じゃないと宝石と付けている人間、どっちが装飾品か分からなくなる」


「だろ?」彼は横目に同意を求める笑みを浮かべる。


 私が頷くと、彼も満足そうに自販機に向き直った。

 自販機の明かりが横顔を照らす。目の下のくまが目立ち、顔の皺も深い。







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