5:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 19:01:10.92 ID:kXRpQ9pe0
◇
深夜
私は尿意を催し目を覚ましました
隣ではネリーがお腹を出してぐっすり眠っています
私たちは先ほどの部屋で食後の片付けが終わったあと、布団を敷きました
その後修学旅行よろしく寝る前に布団の上で様々な話に興じていましたが、夜更かしするとサトハが修学旅行の引率の体育教師よろしく怒りに来ないとも限らないので、ほどほどの時間で眠りにつきました
私はネリーの布団をかけ直したあと、トイレに行こうと思い襖を開けましたが、暗闇の中、ぼうっとした灯りに照らされた廊下を見て、二の足を踏みます
夜の日本屋敷というのは不気味な感じがします
私は誇り高きフランス淑女ですが、自然文学主義者ではありません。ですからこのような不気味な情景にも、毛を刈られた羊のように身体をプルプルさせてしまうのです
そういえば以前、サトハが「欧米は血と悲鳴を怖がり、日本は人と水を怖がる」と言っていました。水が怖いというのはどういう事なのでしょうか
隣で眠るネリーを起こして一緒についてきてもらおうかとも思いましたが、徳川埋蔵金だの平将門の財産だのなんだの幸せそうな寝言を言っているのでやめました
メグかハオについてきてもらおうかとも思いましたがやっぱり眠っている最中に起こすのは忍びないのでやめます
覚悟を決め、一人でトイレへと向かう事にしました
◇
日本のトイレには凄まじくおどろおどろしいイメージを持っていましたが、幸い辻垣内邸のトイレは普通に広く明るい様式のトイレでした
そして、来るときは気がつかなかったけど、いつの間にか私の手には、蔵で手に入れた絡繰覚書があります。どうやら寝惚けて手に持ったまま廊下を歩いていたようです
それにしても、不思議な本です
この本に目をつけたのは、本の偶然と気まぐれです
けれど、なんとなく私にはそれが必然のように思えてならないのです
まるで、運命の歯車が噛み合ったかのように。もしくは、カラクリ装置のネジが巻かれたかのように
「あら?」
思索を巡らせ廊下を歩いていたら、全く見知らぬ場所に立っていました
「ここは……どこでしょう?」
家の中で道に迷ってしまいました
辻垣内邸は驚きがいっぱいです
右を見ても左を見ても似たような廊下が続いていて、どっちに行けばいいのかわかりません。屋内までもが画一的なデザインで統一された日本屋敷の弊害です
ひとまず手頃な襖を開けてみると、だだっ広い畳の部屋が広がっているだけでした
隣の襖を開けても、似たような感じです
向かいの襖を開けると、そこには髪の長い女性が立っていました
「ひっ……」と悲鳴をあげそうになるも、よく見たらただの木像でした
左手を水平にして胸の前に差し出し、右手に鍔がVの字になっている短剣を掲げた女性の像です
聖女のような彼女の姿を眺めていると心が安らぐようですが夜の日本屋敷で彫刻と向き合っているという客観的事実がやはり恐ろしくなり、私は部屋を後にしました
とりあえず縁側にでて、屋敷の周りを巡る事にします。いずれ玄関に着けば、そこからの部屋の場所はわかるはずですから
しばらく縁側を歩いていると、月明かりに照らされ縁側に腰をかける黒髪の女性の姿が見えました
見間違えるはずもなく、サトハです
「こんな時間にどうしたんだ、明華」
こちらを一瞥し、驚いた様子のサトハ
「サトハはどうして?」
家の中で道に迷ったなどと言えるはずもなく、話を逸らします
すると、サトハは遠い目をして「……少し、昔を思い出してな」と呟きました。お盆と蔵の中の整理。サトハにも、何かしら思う事があったのでしょう
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