6:名無しNIPPER[sage]
2017/06/11(日) 19:01:40.55 ID:kXRpQ9pe0
私はサトハの隣に腰をかけて、月明かりに照らされた日本庭園を眺めます
とても静かで雅な時間が流れています
日本は静を重んじ、欧米は動を重んじる。という話を聞いた事があります
夜を背に月のスポットライトを浴び、時が止まったかのような静謐な時間を湛えつつも、そこにさやけき空気が流れているこの空間は、まさしく日本の「静」を象徴するものです
そして、何も言わずとも目の前の感動を隣にいる人と分かち合う事ができる。というのは、国境に関わらず、人が皆持ち得る感情です
しばし私たちは情景を眺めていました
すると、サトハは私が手に持った本に気づきました
「その本……本当に欲しかったのか?」
「サトハはこの本が何なのかわかっているんですか?」
「わかりもしないのに渡すわけないだろう。それは私の曾祖父さんの書いた本だ」
最後のページを見てみろ。というサトハの言葉に従い本を開くと、そこには一枚の写真が乗っていました
そこには、三人の男性が写っています
真ん中の男性は、切れ長の瞳に凛々しい表情を湛えた男性で、どことなくサトハに似ている気がします
右の男性は恰幅のいい中年で、気品と教養の深さが漂っています
左の男性は面長で、神経質そうな雰囲気を携えています
「その真ん中の男が私の曾祖父さんでな。私が生まれる前に既に亡くなっていたんだ。その時にこの本は処分してくれ。と息子……私の爺さんに頼んだらしいんだが、なんとなく処分する気になれず、とっておいたらしい」
なるほど。それならハオの昭和初期に書かれていた。という言葉と合致します
「その曾祖父さん……辻垣内 時永(つじがいと ときなが)って言うんだが、とても変わり者でな。若い頃は世界中を放浪していたらしい。当主になってからは日本からは出なくなったらしいが、それでも奇行が目立ったらしい。家の者を全員母屋から追い出して、三ヶ月かけて屋内の襖を全部張り替えたり畳を真新しくしたり、変な彫刻を置いたりしてな」
写真の理知的な面影からはそのような感じはしませんが、切れ長の瞳にはどことなく好奇心に満ちた光を感じます
「そんな破天荒な人だったけど、近くに住んでいた貴族の月神 小太郎(つきがみ こたろう)にはよく可愛がられていたらしい。彼も月神氏を慕ってんだと。ほら、その写真の右の人だ」
なるほど。この恰幅のいい男性は貴族でしたか。この気品も頷けます
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