雀明華「スタンド・バイ・ミー」
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23:名無しNIPPER[sage]
2017/06/16(金) 11:31:00.94 ID:C7mt4QM40

      ◇


結果からいうと私はボロ負けしました

常に強気なメグに押し負けたのです

「んー。勝利の後のコーヒーは格別でスネ」

優雅にコーヒーを飲むメグ。悔しいです。次こそ負けません

なんとなしにトランプを眺めていると、とある事に気がつきました

「ダイヤの王様だけ、剣じゃないんですね」

「ん、ほんとでスネ」

横からメグも覗き込みます

クラブ、ハート、スペードのキングはみんな剣を持っているのに、ダイヤのキングだけ斧を立てかけています

「それは『ファケス』と呼ばれる、古代ローマの斧で、権力者の権威の象徴なんです」

優雅にバーテンダーさんが解説します

「トランプのキングにはそれぞれモデルとなる人物がいるんです。クラブがアレクサンダー大王。スペードがダビデ王。ハートがカール大帝。ダイヤがジュリアス・シーザー……カエサルです」

なるほど。一つ賢くなりました。今度ネリーに教えてあげるとしましょう

「このハートのキング……なんで自分の頭に剣を突き刺しているんでスカ?」

言われてみれば、自分の頭に剣を突き刺しているようにも見えます。私はただ剣を振りかぶっているようにしか見えなかったので、なんとバイオレンスなキングでしょう。としか思っていませんでした

「その通り、自分で頭を突きさしているので、ハートのキングは『自[ピーーー]るキング』と呼ばれています。もっとも、カール大帝は自殺などしておらず、むしろ70歳の大往生でしたが」

なるほど。トランプというのは奥が深いです

その後もバーテンダーさんは、トランプに関する面白い知識を幾つか披露してくれました。私とメグは、夢中でその話に聞き入りました

「それにしても、随分とトランプにお詳しいんですね」

おそらくトランプクイズ大会があれば優勝も狙えるでしょう。そんな大会があればですが

「トランプもこの店も、曽祖父の趣味だったんです。テーブル遊戯ができるカフェを作りたい。という」

バーテンダーさんが相変わらず数寸違わないグラスを磨く態勢のまま説明します

「曽祖父から……という事は、随分と昔からある店なんですね」

「そうでもありません。せいぜい昭和中期からです」

グラスを拭く手を止め、カウンターの中をゴソゴソと探ります

「当時の私の曽祖父は財閥……貴族のようなものでしたが、かつての大戦の敗北で財産のほとんどを没収されてしまったんです。そして残された財産で、この遊戯ができる喫茶店を開いたんです」

そう言ってバーテンダーさんは、カウンターの内側から写真立てを取り出します

「この写真の人物が、私の曽祖父です」

私は写真を覗き込み、驚きました

写真に写っている、優雅さと気品と教養を携えた、恰幅のいい男性に見覚えがあるからです

「月神……小太郎」

その写真に写っている人物は、絡繰覚書の写真に写っていた貴族、月神小太郎さんなのです

どうやらあの立派な紳士はその後、財産を没収されてしまい、喫茶店の店主になっていたようです

「そういえば、曽祖父が没収された財産はかなり少なかったらしく、財産をどこかに隠した。と噂されたそうです。結局政府やGHQが色々調べても隠し財産は見つからなかったみたいですが」

大戦と隠し財産……

何かピンとくるものがあります。もう少しで、何か……

「それはそうとミョンファ。オセロをしませンカ?」

何か気づけそうだったけれど、オセロの誘いに私の考えは霧散し、オセロに飛びつきました

ちなみに今度は私が勝ちました

メグの黒い駒を全部真っ白にしました




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