20:名無しNIPPER[sage]
2017/06/14(水) 19:39:24.71 ID:ZDD1pdCd0
その後も、ネモさんと久々津さんは様々なカラクリを見せて私を驚かせてくれました
歌う小鳥さん。丸くなって転がる猫さん。空中に跳び三回転して着地するカエルさん
髪の長い女性の人形が四つん這いで近付いてきてゆっくり立ち上がった時は、思わず悲鳴をあげたほどです
『お嬢さんくらい良いリアクションをくれると、こちらも披露し甲斐があるよ』
ネモさんは満足そうです。久々津さんも心なしか満ちた目をしています
それにしてもーーーーーーこの人、どこかで見た気がします
じーっと彼の顔を見ていると、ふいっ。と顔を逸らしました
彼は何かを誤魔化すように手の中で螺子を弄びます
「そういえばさっきから、ずっと同じ螺子を使っていますけど、全部同じ螺子で動くんですか?」
『彼の家は代々カラクリ人形を作っていてね。その頃から螺子の形もデザインもずっと変わっていないんだよ』
やはり久々津さんの代わりにネモさんが答えます
要するに、道家家のカラクリ人形は全て一つの螺子で動かすことができるという事です
久々津さんは無言で螺子を差し出します
その螺子は、赤い塗装に美しい彫刻が施された螺子で、惚れ惚れするほど美しいです
久々津さんがパンッと手を合わせ、両手を広げたかと思うと、いつの間にか手の間に細いチェーンが伸び、先ほどの螺子に通されていました。どうやら手品もできるようです
久々津さんは無言で両手を伸ばし、チェーンを私の首にかけてくれました。ちょっとお洒落な螺子のペンダントです
「ありがとうございます」
私がニッコリ微笑むと、照れたように顔を背けました
『キザな事するねぇ』
ネモさんがからかうようにピーヒョロロロと鳴きます
『さあ、そろそろ店仕舞いだ。お嬢さん。お帰りなさい』
ネモさんがそう言うと、久々津さんはシートと人形を片付け、トランクにしまい込みます
カラクリ人形に見惚れている間に、気がつけばもう夕刻になりました
『では、縁があったらまた会おう』
羽根を振るネモさんと会釈をし立ち去る久々津さんを、私は手を振って見送りました
公園で遊んでいた子供達も、みんな帰っていくようです
ぼーっと眺めていると、子供の一人が、買い物帰りの様子の母親と手を繋いで帰っていく姿を見ました
あの子は、母親とどんな話をしているのでしょうか
きっと家に帰った後は、ご飯を食べながら、両親に今日あった事を嬉々として話すのでしょう
そして、明日は友達と何をして遊ぼうか考えながら、布団の中でゆっくり眠りにつくのでしょう
夏の夕刻というのは、どうしてこうもうら寂しい気持ちになるのでしょうか
「あ、ミョンファだ!何してんのこんな所で……え!?なんで急に抱きついてくるの!?わっぷ……来るし……え?お母さんに会いたい?ははーん。さてはホームシックだね!いいよ!ネリーに存分に甘えなさ……だから苦しいって!ギブギブ!」
私はその日の晩、ネリーを抱き枕にして眠りました
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