4: ◆XUWJiU1Fxs[sage]
2017/06/02(金) 23:20:10.65 ID:msBbbnVco
「はぁ……」
自室に戻った私は倒れこむようにベッドに横になりました。別に体力的に疲れていたわけじゃないですが、心が重りになってそのまま私の足取りを鈍くしているようで。だけど流した汗をお風呂で流したいと思っていました。少しでもスッキリすれば、冷静に今後のことも考えられるはず。ゆっくりと立ち上がって浴場に行こうと準備していると扉がトントンと叩かれました。
「まゆはん、おばんですー」
「あら? 紗枝ちゃん?」
小早川紗枝ちゃん――京都から来た事務所でも一二を争う純和風アイドルです。まるで竹取物語のかぐや姫がそのまま出てきたような雰囲気を醸し出していますが、実際話してみると冗談が好きでお茶目な一面のあるあいくるしい女の子でした。何度か同じユニットで活動したこともあって、事務所のアイドルの中でも親しい方だと思っています。
「いやなぁ、実家から差し入れが届いたもんやから皆で食べよ思てたんやけど……まゆはん、どうかしたんどすか? 苦しそうな顔してますえ?」
紗枝ちゃんに言われて姿見を見てみます。そこに映っていたのは、悲しみと怒りと諦めを綯交ぜにしたようなひどい顔の私。とてもこんな顔でテレビになんか出られません。
「これは」
「どないかしたん? 何か嫌なことでも?」
紗枝ちゃんは心配そうに声をかけてくれます。
「いやですねぇ、演技の、練習ですよぉ。今度のオーディションで悲しい演技をすることになっ」
「忍ぶれど色にでにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで。今のまゆはんに、ぴったりな歌どすえ。まぁ、今に限った事やあらへんけど」
「えっ?」
私の言い訳を遮ったのは古い時代から歌われ続ける31文字。その意味がわからないほど、私は子供ではありませんでした。
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