【モバマス】まゆを飼う
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40:名無しNIPPER[sage]
2017/06/17(土) 06:02:47.54 ID:SPT11cJFo

「あの……人語を喋る? 人の言葉を話すのか?」

 恐る恐る俺が訊くと、女は一瞬キョトンとした顔になり――
 今度はホントの本当に、人を馬鹿にした笑いを上げたのだ。

 頼りない街灯の明かりの下でひとしきり笑うと、
 彼女は涙を拭うようなワザとらしい演技までして見せる。

「お兄さん、それ本気で言ってるんですか? アナタ、あの子を飼い始めてひと月はとうに過ぎてますよね」

「でも、うちのまゆは鳥みたいな鳴き声しか――」

 不意に、女の笑顔が引きつった。
 まるで予期せぬ言葉が返って来たとでもいうように……。

 けれども俺が疑問を抱くよりも早く、彼女は逃げるように顔を逸らして話し出す。

「とにかく、あの子たちは人語を……解します。喋るのではなく理解する。
 中には、簡単な意思疎通までやってのける個体もいるそうですけど」

 デンと、机の上に分厚い本が一冊置かれた。タイトルは『I:DOLの育て方』……そうしてこちらに向けた顔。

 仄かな明かりの中で浮かべる女の笑顔には、
 一切の感情が存在しないようであり。

 正に、ゾッとするような作り笑い。

「こちらはネットなんかにも載ってない、あの子たちの詳しい取り扱い説明書です」

「ね、値段は?」

「……今回は無知なアナタを憐れんで、無料で進呈致しましょう」

 押し付けるように本を渡されて、俺はその場を後にした。

 帰り際、背中越しに聞こえた言葉が残響のように揺れている。

「薬、ご用意して待っていますから。……彼女共々、今後も私たちをご贔屓に」

 ……だがしかし、女の姿はそれきりだ。

 あれから数週間経つが、寂しい路地の街灯下、怪しい露店はついぞ見かけない。

 その出会いや会話の一切が、夢や現だったかのように……。


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