7: ◆OYYLqQ7UAs
2017/05/19(金) 09:30:15.70 ID:1MWb8Lrjo
「杏奈ちゃん、ボートに乗ろう!」
そう、今日の目的は、ボートなのである。
いきなりボートに乗るなんて言い出して、不思議がられるかな、と思ったけど、杏奈ちゃんはむしろノリノリだった。
さっきの風景を見てテンションが上がっているのかもしれない。もちろん、ONモードとは比較するまでもないけれど。
貸しボートを借りて、湖へと漕ぎ出す。
うまく漕げるか不安だったけど、なんとかスムーズに漕げているみたいだ。
湖の岸を離れ頃には、少しばかり早く顔を出した月が、空にぽっかりと浮かんでいた。
そよそよと心地よい風が吹いて、ひたひたと波の音がかすかに聞こえる。
「今日はいきなりこんなとこまで連れ出して、ごめんね」
「ううん……すごく、綺麗だったし…楽しかった、よ」
漕ぐのを止めてそう話しかけると、杏奈ちゃんはそう言って本当に楽しそうに笑った。
ゲームをしているとき以外で、OFFモードの杏奈ちゃんにこんな顔をさせたことに、嬉しさと誇らしさと、少しの優越感を覚える。
それは、杏奈ちゃんをこんなに楽しませられるのは私なんだ、という、誰に向けるでもない微かな独占欲。
ボートのオールから滴った水滴の音が、一瞬の会話の途切れ間をつないでくれる。
それはなぜか、とても近しいもののように聞こえた。
「杏奈ちゃん?」
気づくといつの間にか、杏奈ちゃんがスマホを取り出して何か操作をしている。
なにかゲームのことでも調べているのだろうか、と考えて、今のこの時間に集中して欲しかったな、とも思ってしまう。
そこまで杏奈ちゃんのことを束縛する権利などないというのに、この湖上の暗闇が、そんな気持ちを掻き立てるのだろうか。
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