6: ◆OYYLqQ7UAs
2017/05/19(金) 09:29:44.90 ID:1MWb8Lrjo
「あ、大丈夫…だよ。意外、だった……だけ」
もしかして顔に出ていたのだろうか、杏奈ちゃんがそういって私の方をみて笑う。
その笑顔はいつもどおりの笑顔で、その言葉が嘘じゃないってことはすぐに分かった。
「ならよかった! じゃ、じゃあちょっと早いけど、バス乗っちゃおうか」
それでもその笑顔を見ていると顔が赤くなりそうで、私はごまかすように杏奈ちゃんを連れてバス停へと向かう
いつも通りの笑顔のはずなのにこんなにドキドキするのは、私がこれを、デートだと意識しているせいなのだろうか。
結果として、早くでて良かったのかも知れない、と湖に着いたときにまず思った。
途中の道で事故があったみたいで、バスが遅れたのだ。しかも山道に入っていたから迂回路もなく立ち往生。
杏奈ちゃんとおしゃべりしていたから時間がかかるのは苦じゃなかったけど、これがもし予定通りの出発だったらと思うと、幸運だったと思う。
「わあ……!」
湖を目にしてすぐ、杏奈ちゃんが声を上げた。
無理もない、私だってさっきから目を奪われていて言葉が出ないのだから。
湖に着いたときにはすでに夕暮れ。山に沈んでいく夕日は時間と共に赤味を帯びて、山も湖面も同じく染め上げていく。
穏やかな湖面がキラキラと夕日を反射して、それはまるで大きな鏡を使った芸術品のようで。
私と杏奈ちゃんはしばらくの間、赤い世界の中でその景色を堪能していた。
「すごかった……ね」
「うん、すごく綺麗だった!」
夕日がだんだんと山の向こうへと沈んでいった頃、私と杏奈ちゃんは我に帰った。
私が妄想の世界へ飛んでしまうことは日常茶飯事だけど、杏奈ちゃんと一緒に我を忘れて時間を過ごす、なんて貴重な体験ができたのは素直に嬉しい。
しかし、今日はこの景色が目当てでこの湖へ来たのではない。
むしろこんな綺麗な景色が見られるなんて知らなかった。
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