サターニャ「サタニキア百科事典」
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190: ◆n0ZM40SC3M[sage saga]
2017/05/08(月) 01:57:43.83 ID:6an8YmUi0




そうだ、アイロンだ……。

覆いかぶさっている彼女の体温もあって、私は夢を見るように、昔のことを思い出していた。

私が手を使って何かを作ることに興味を持ったのは、おばあ様のアイロンがけがきっかけだったように思う。

おばあ様の使っていたアイロンは、底の形こそお母様の使う電気アイロンと同じく雫のような形をしていたけれど、

内側に火をつけた炭を入れて、その熱を利用していた。

煙突のついたその形はまさしく船のようで、蒸気をあげながら皺を伸ばす様子は、

立ち込める霧の中での航海みたいに、行く手を遮る荒波を調停しているようだった。

一切の迷いのない、流れるようなその手つきが見ていて気持ちがよく、

赤く燃える黒炭を宿したアイロンは生き物のようにも思えて、

顔に当たる湿った熱気も、残される凪いだ水面も大好きだった。

もしかすると、元々私は、何かが出来上がることよりも、何かを作ること、それ自体が好きだったのかもしれない。

ガヴリールやヴィーネが編み物をする姿を見て感じていた安心感は、彼女らにおばあ様を重ねていたから、なのだと思う。





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