【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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81: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:17:21.00 ID:Q3fcpmY20
 茜たちとともにバルコニーへ上がるステップをのぼる。
 バルコニーのゲートの向こうからは開演を待つファンたちの熱気が伝わってくる。
 暗幕で区切られたゲートの前に、それぞれのアイドルが立った。
 比奈と春菜は川島瑞樹の両翼に。裕美とほたるは佐久間まゆの両翼だ。
 俺は直前の茜の件を受けて、念のために茜の入場位置付近に待機することにした。茜と美穂は、美嘉の両翼となる。

「初めてのライブって、緊張するよねー。アタシも最初の時はヤバかったなー、でも、レッスンの通りやれば大丈夫だから、楽しもうねー、サイッコーの景色だからさ!」

 美嘉はそう言って茜と美穂に笑いかける。緊張を感じさせない、軽快な声色だった。

「はいっ! よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」

 茜と美穂がそれぞれ返事をすると、三人はゲートの前に立つ。
 ほかのゲートも同じように、それぞれのアイドルが並んでいた。
 暗幕の向こうにはまだ、開演前のBGMとしてアイドルたちの音源が流れている。
 増幅された低音が胸を衝く。この時間は、裏方の身とはいえど、緊張しなかったことはない。

「本番、いきます!」

 スタッフの声がかかり、BGMがひときわ大きくなる。それに引っ張られるように会場の熱は一層高まり、そしてBGMが消えゆき、ファンの声だけが残る。
 ファンファーレが始まる。目の前の三人が、すぐに飛び出せるようにほんの少しだけ姿勢を低くした。
 ファンファーレが終わる、その瞬間に、ゲートの暗幕が一斉にあげられる。ステージの向こうの光が飛び込んでくる。

「行くよ」

 美嘉が両隣の二人に声をかけた。

「行って来い」

 俺はそれぞれのゲートにいる五人に声をかけた。
 最初の曲のイントロが始まる。
 茜と美穂はスタートの姿勢をとる。

「行きます!」茜が言った。「『カレー!』」

 その言葉を聞いた瞬間に、俺の脳はフル回転を余儀なくされた。目の前の景色がゆっくり流れる。きっと、美穂も同じだっただろう。
 『カレー』で始めたら、残りは『ライス』しかない。二拍だ。打ち合わせは『カ・レー・ライス』で三拍だったじゃないか。
 茜、それじゃあ、タイミングが合わない。
 伝えなくては。ストップして、もう一度。変に強行してガタガタになるより、仕切り直したほうがいい。

「ぁ……っ!」

 また、だった。
 また、俺の喉からは声が出なかった。
 胸が、喉が、音を出すのを拒絶するみたいに、俺の言おうとすることを拒む。
 どうして。そう考えているあいだに、時間は過ぎる。

「ラ……」

 茜もミスに気づいたようだった。茜と美穂はタイミングを逸する。
 ゲートの手前で、二人はがくん、と姿勢を崩した。
 茜と美穂の顔が同時にさぁっと青くなる。


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