【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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80: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:15:05.78 ID:Q3fcpmY20
 俺は俺自身に対して困惑した。なにが起こっているのかわからなかった。
 比奈たちユニットのメンバーに囲まれ、待機しているほかのアイドルたちにも囲まれ、俺は茜を目の前にして動くこともできず、喉の奥から細い息だけを漏らしていた。
 どうなっているのかわからないまま、とにかく茜の背に手を添えようと、右手を伸ばしたところで、先に比奈たちが茜に駆け寄る。
 それぞれが茜の手を取り、肩に手を添えた。

 十数秒で、茜の呼吸の間隔は次第にもとの落ち着きを取り戻した。
 茜の眼から数粒の涙がこぼれ、舞台袖の床板に小さな丸い水の跡を作る。
 ほたるが近くのテーブルからタオルをとってくると、茜の涙と汗を丁寧にふき取った。

「っ、はっ、はーーー……ありがとう、ございます」

 茜はようやく言葉を発する。裕美に渡されたボトルの水を口に含んで、時間をかけてゆっくりと飲みこみ、それから、茜は比奈たちに向かって微笑んだ。
 それから茜は自分の両の頬をぱんぱんと軽く叩くと、両腕でガッツポーズした。

「よおっし! 日野茜、もう大丈夫です! すっごく緊張してますけど! でもみんなのおかげで吹っ切れました! みなさん! お騒がせしましたっ!」

 謝る茜に対して、比奈たちはほっとしたような笑顔を見せる。周りで見ていたアイドルたちも、それぞれに安堵の顔を見せた。

「すいませんプロデューサーさん! やっぱり、緊張してたみたいです!」

「ああ」俺は自分の混乱を隠して茜に笑いかける。「初めての大舞台だ、無理もないさ。きつそうだと思ったら正直に言ってくれ」

「はいっ!」茜は大きく頷く。「楽屋のとき、本当はダメでした! でも今は、きっともう大丈夫です! つぎダメになりそうなときは、すぐに言います!」

 俺は茜の言葉を信じることにした。冗談は言えないようなやつだ。これならきっと、大丈夫だろう。
 俺はもう一度、さっき自分に起こったことを思い出す。どうして、声が出せなかった?
 そう考えているあいだに、俺の周りには茜たち五人が集まっていた。俺は再び、思考を中断する。

「よし、それじゃいよいよ本番だ。どんなことでもいい、なにかあったらすぐに相談してくれ。一人で背負わないようにな。記念すべき、初ライブだ。……みんな、頑張ってこい!」

「はいっ!」

 五人の声が重なる。

「……閃光のように! ……っス」

 比奈が拳を握り締めていた。

「時間です! 集合確認できてます、開演まであと五分!」

「じゃ、円陣組もっか!」

 美嘉が声をかけると、アイドルたちは並んで輪を作る。美嘉が右手を出すと、それにならってアイドルたちは全員右手を出した。

「掛け声は……」

「やっぱり、美嘉ちゃんにかけてもらうのがいいんじゃないでしょうか」

 そう言ったのは、高垣楓。アイドルたちの中で芸歴も長く、本番を前にしても落ち着き払っていて風格がある。

「あはは、楓さんに言われちゃ、しょーがないかな、それじゃ……」

 美嘉は一転して、好戦的な獣のように目をぎらつかせる。
 すぅ、と息を吸い込んで。

「今日、ここを! 世界の中で一番アッツい場所にする! 美城プロ、サマーフェス! いくよぉっ!」

 重ねた手のひらがぐっと沈んだかと思うと、アイドルたちの掛け声とともに、羽ばたくように高く掲げられた。



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