【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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76: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:07:10.49 ID:Q3fcpmY20
楽屋の扉を開ける。
五人はそれぞれに、自分の衣装やメイクの確認をしていた。
おかしなところのない風景に見えるが、俺はなにか違和感を覚えた。
順に五人を見る。違和感の正体が判った。茜が大人しくしている。
茜は楽屋内に置かれた、舞台の様子を確認できるモニターを真剣な眼でじっと見つめて、小さくひらいた口からゆっくりと息をしていた。
衣装をまとった胸のあたりがゆっくりと上下している。
「……大丈夫か?」
茜に声をかける。茜は返事をせず、代わりに他の四人が俺と茜のほうを見た。
俺は近くまで歩みより、茜の目のまえで手を振る。それでようやく茜ははっとしたようにこちらを見た。
「はっ、ひゃい!」
びくりと肩が跳ねて、間の抜けた声が茜の口から出た。
「茜ちゃん、大丈夫スか? ぼーっとして」
比奈が心配そうに尋ねる。
「あっ、はいっ!」茜は勢いよく立ち上がる。「すいません! 気が抜けてたようです! 大丈夫ですっ! このとおり!」
「ひょっとして、緊張してきたか?」
俺は大きく腕を振り回して元気をアピールしている茜に尋ねる。
大きな舞台となれば、多かれ少なかれ人は緊張する。場数を踏んだアイドルであっても、ライブ当日となればリハーサルと完全に同じ気分では過ごせないものだ。
むしろ適度な緊張感は本番の集中力を高めてくれるものだし、緊張が原因で多少のミスがあったところで大勢に影響することはほとんどない。
それだけのレッスンを重ねてもいる。
だが、ごくまれに極度の緊張、過呼吸などでアイドルが出演不可能な状態に陥ってしまう場合はある。俺は念のために茜の様子を観察した。
「いやっ、大丈夫です! ちょっと精神を統一していました!」
茜はさきほどまでの呆けた顔が嘘であるかのように、戦意たっぷりの目でこちらを見た。
その顔、髪の生え際を中心に、普段より多く、じっとりと汗をかいているように見える。
「……そうか」違和感は晴れなかったが、開演時間も近い。茜がこのまま持ち直すことを俺は祈った。「そろそろ舞台袖に移動しておこう。早めに入ってほかのアイドルを待つくらいのほうが余裕あっていいと思うぞ」
「じゃあ、みなさん、行きましょうか!」
春菜が立ち上がり、楽屋の扉を開く。五人はそれぞれ、真剣な顔で舞台へと向かった。
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