【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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66: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/21(日) 00:22:18.45 ID:9pse+9K10
「……春菜ちゃん」
春菜の背を優しく撫でていた比奈が、春菜の手を包むように握った。それから、真剣な眼で口を開く。
「まだ、アイドルなりたてのアタシがこんなことを言うのは、およびじゃないかもしれないっスけど」
比奈はひとつ呼吸を置く。
「自分にとって大事なことを決めなきゃいけないときって、色んな誘惑が襲ってくるもんっス。ああしたほうがみんなが喜ぶだろう、きっとうまくいくだろう、だからこっちを選んだほうがいいかもしれないって。でも、ほんとうに大事なのは自分自身の心っス。ほかは……全部、よけいなコトっすから。惑わされちゃ、だめっスよ」
「比奈、さん……?」
春菜は比奈の目を見る。見つめ返す比奈の眼は、じっと春菜を見据えている。
「一回でも誘惑に負けたら、つぎのチャンスなんて、二度と巡ってこないかもしれないっス。だから、春菜ちゃんは自分にとって大事な事だけを選んで、決めてほしいっす」
そこで、比奈はふっと表情を緩ませる。
「生意気言って申し訳ないっス。でも、春菜ちゃんよりちょっとだけ長く生きてるヤツの意見ってことで、受け取ってくれたらうれしいっス」
「……私にとって、大事なこと……」
春菜はもういちど、視線を下に落とす。それから春菜は呼吸を二、三度繰り返し、それから深く息を吐いて、止まった。
やがて、春菜はゆっくりと顔をあげた。
それから、目を閉じて、両手で丁寧に眼鏡の全体を包むようにする。愛おしそうに。数秒そうしたあと、春菜はまぶたを開いた。
レンズごしに俺を見つめる春菜の両目は、はっきりと意思を伴っている。
背筋がぞくりとした。
そういえば、先輩が言っていた。アイドルと接してると、急にそのアイドルが化けるときがあるのだと。
たぶん、いまのがそれだ。
「やります」春菜ははっきりと言った。「私、一番の眼鏡アイドルになります!」
「春菜ちゃん……」
比奈が安堵の声をあげた。少し離れたところでマキノが微笑んでいる。
「よし」俺は大きくうなずく。「わかった。俺も眼鏡アイドルの春菜をプロデュースする。眼鏡の写真だけを通すさ」
「プロデューサー……!」春菜はぱっと顔を輝かせた。「ありがとうございます!」
「さ、そろそろ戻るぞ。休憩は終わりだ」
俺はみんなにスタジオへ戻るよう促す。春菜は、笑顔で楽屋から出て行った。
「とても興味深いわね」マキノが言う。「まだ、解析できないの。いま、なにが起こったのか……でも、とてもいいものを見せてもらえたわ。ありがとう」
マキノは手を振り、楽屋から出て行った。
「ふぅ……」
大きく息をついた俺のとなりに、比奈がやってくる。
「思ったとおりっス」比奈は嬉しそうな顔をして言った。「プロデューサーは悪人にはなりきれない人っス、ちゃんとプロデューサーしてくれてるじゃないっスか」
俺は比奈のほうを見て、笑い返してやる。
「そりゃ、仕事だからな……でも比奈、比奈の言葉が春菜の背中を押したんだ。ありがとうな」
そう言って、俺は楽屋を出た。
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