【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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65: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/21(日) 00:21:08.11 ID:9pse+9K10
春菜、比奈、マキノとともに楽屋に入ると、俺はがっくりと肩を落とした。
普段やらないようなキャラクターを演じるととても気疲れする。
マキノは俺たちから少し離れたあたりの壁に背あずけて、こちらを見ている。
「すいません、中断させてしまって」
春菜はやや暗い声で言う。
「いや、大丈夫だ。とりあえず落ち着いてくれ」
「春菜ちゃん……眼鏡のことを心配してるっスね? その……申し訳ないっス、アタシが断って流れを作っておけば……」
比奈の言葉に、春菜は首を振る。
「いえ、気にしないでください」
「ああ、比奈の撮影はあれでよかった。……マキノもな。気にすることじゃない」
「そうです。眼鏡のことは、私の問題です。撮影、二人ともすごくよかったです」
春菜ははっきりとそう言った。
「さて……春菜の撮影だが……眼鏡については、外す指示があるかもしれないな。前の二人にあった通り……な」
「はい、でも……」春菜は胸の前で握り拳を作る。「眼鏡は、外したくないんです。外した写真を撮って、それが採用されるかもしれないのは……」
春菜はうつむいて、そこから先の言葉を濁した。
きっと、春菜自身が、その考えが特異なものであるということを理解している。
春菜の眼鏡に対するこだわり。それは春菜の最大の魅力であり、セールスポイントだ。
だが、モデルとしての仕事、アイドルとしての人格から離れ、ファッションを輝かせるための素材になり切る仕事には、そのこだわりは重要なポイントではなくなる。
眼鏡をはずしてファッションが映えるなら、間違いなく眼鏡をはずすのが正解なのだ。
けれども、だからといってモデルは人格のない人形ではない。
今回、この雑誌の仕事がモデルではなくアイドルを起用したのは、モデルよりも身近な存在の人格とともにファッションを紹介するためだろう。
「私をスカウトしてくれたプロデューサーさんも、眼鏡をかけた私を、魅力的だって言ってくれたんです」
春菜はぽつりと漏らした。
「眼鏡が好きで、でも眼鏡をかけた地味なアイドルなんていないから、眼鏡じゃだめかなって悩んでたところに、そのプロデューサーさんは背中を押してくれたんです。眼鏡のほうがいいって、眼鏡を好きなままでいいって」
「春菜ちゃん……」
比奈がそっと春菜の背に手を添える。マキノは真剣な表情でこちらを見ていた。
俺は少し目を細める。
これは春菜の今後に関わることだ。春菜がきちんと腹をくくらなくては、前に進めない。
「春菜」
俺は春菜の前に歩み出る。
「俺は……今、臨時でもお前たち五人のプロデューサーだ。春菜が眼鏡へのこだわりを持ってることで輝いているのはわかっている。俺もできるだけその意思を汲んでやりたい。けれど、春菜自身が感じているように、春菜の眼鏡好きが、今みたいに障害になることもある。そういうとき、一番ダメージを受けるのは春菜だ。眼鏡アイドルとして羽ばたければ一番いい。だけど、眼鏡へのこだわりが強すぎることで仕事が減る可能性だってあるんだ。ひょっとしたら……眼鏡へのこだわりが強すぎたことで、アイドルとして成功する道を逃すかもしれない」
春菜は俺の目を見た。不安そうな顔をしている。俺は続けた。
「もちろん、その逆もある。眼鏡へのこだわりを持ち続けて、その魅力で羽ばたける可能性だって。けどな、その道を選んだときは、ブレちゃだめだ。眼鏡へのこだわりを一瞬だって疑ったら、その瞬間に終わっちまう。厳しい道だぞ。……春菜が、決めるんだ。眼鏡アイドルで、行くのかを」
春菜は俺の目を見て、それから視線を下に落とす。
比奈はずっと春菜の背を撫でている。
これ以上は、俺も、比奈も、もちろんマキノも、ほかの誰も、助けてやることができない。
春菜が自分自身と向き合って、決めなくてはいけない。
そうじゃなきゃ――それ以上に覚悟を決めて戦ってるアイドルたちに、太刀打ちなんてできやしない。
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