【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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64: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/21(日) 00:18:50.76 ID:9pse+9K10
「床にお座りする感じで、足は楽にして」
「こうっスか?」
「そうっ! いいよ、もっと力抜いていい、笑顔見せて」
「急に笑顔とか言われても、は、恥ずかしいっス……」
比奈がそう言ってはにかんだ瞬間を逃さず、連続でシャッターが切られる。
「よーし」カメラマンは満足そうに微笑む。それから比奈の顔をじっと見た。「うん、キミもちょっと一回眼鏡、はずしてみよっか」
瞬間、場にわずかな緊張感が走った。比奈は俺と春菜のほうをほんの少し見てから、ゆっくりと眼鏡をはずす。
「うん、それもいいなぁ!」
カメラマンは再びシャッターを切り始めた。
確かに、比奈は普段眼鏡をかけているが、眼鏡をはずしてもそのキャラクターに致命的な影響は与えない。
だが今の問題は、別のところにある。俺は春菜のほうを見た。春菜は眼鏡をはずした比奈をじっと見ている。両手はぎゅっと握りしめられていた。
このままではまずそうだ。そう判断した俺は、比奈の撮影が終わるころテーブルの上において置いたドリンクをひとつ手に取った。
「お疲れさま! すごくよかったんじゃない?」
「恐縮っス……ありがとうございました」
撮影が終わり、比奈はほっとした顔でカメラマンに礼をした。
「さて、それじゃ……」
「いやーっ、お疲れ様です、ありがとうございます!」
俺はカメラマンの言葉にかぶせるようにして、声を大にして近づいていく。
言いながら、ドリンクのキャップを開けて、カメラマンに差し出した。
「とっても素晴らしい撮影でした! うちのアイドルたちめちゃくちゃ綺麗にとってもらって、ありがとうございます!」
カメラマンは目を丸くして、差し出されたドリンクを受け取った。
「そう? 大げさだよ」
「いやいやいや、そんなことないです! 自分でも社内カメラマンとかに宣材写真とか手配しますけれど、それとも段違いで恥ずかしいくらいですよ、ハハハ……ところでなんですけども!」
俺はできるだけ、相手が会話に入る間をつくらないように言葉をつづける。
「ちょっとここらで、小休止入れませんか、時間も経ちましたし、お疲れでは? まだ撤収まで時間に余裕ありますし、そちらは午後も撮影があると聞きました。全体はマキで進んでますんで、どうでしょう?」
どうでしょう、に「お願いします」のニュアンスをほんのすこしだけ混ぜて、俺はカメラマンにお伺いを立てた。
「ん……そうだなぁ……」カメラマンは斜め下のほうを見て少し考えてから言う。「じゃ、お言葉に甘えて、ちょっと休憩しようか」
「ありがとうございます! じゃあ……」俺は時計を見る。「二十分後までには、こちらスタンバイ完了しておきますんで!」
「はい。じゃ、ちょっと外でタバコしてこよっかな」
「あーっ、すいません気が利かず、普段吸わないもんでタバコも火も持ってなくて……」
「いい、いい、大丈夫だよ、ありがとね」
言って、カメラマンはスタジオの外へ歩いて行った。その姿を見送り、ドアが閉まるのを確認する。
「ふーっ」
俺は大きく息をついた。
「プロデューサー、ありがとうございます」
春菜がこちらを見ていた。俺が時間を稼いだことがわかったらしい。
「とりあえず、楽屋に入ろう」
俺が楽屋の扉を示すと、春菜はうなずいて楽屋へと向かった。
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