【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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63: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/21(日) 00:17:41.52 ID:9pse+9K10
俺も、春菜の言葉の先を探ろうとはしなかった。
春菜の心配は判っている。というよりも、春菜の心配は恐らく俺がいま心配していることと同じことだ。
春菜は自分が眼鏡をはずすことを求められないか不安に思っている。
俺は内心で頭を抱えていた。最初に春菜たちに説明したとおり、このカメラマンはそれなりの大御所だ。
変に機嫌を損ねて、プロダクションの評判を下げたくはない。
一方で、春菜の眼鏡にかける情熱は春菜のアイデンティティだ。
「まぁ、大丈夫さ」
俺は間の抜けた声で春菜に言う。なんの根拠もない。春菜はそれ以上話しかけてはこなかった。
マキノに続いて撮影が始まったのは比奈だった。
比奈は「心が無理って思ったらその時点で負け……行ってくるっス」とつぶやいて、やや硬い動きでカメラマンのもとへと歩いて行く。
「むっ……すこし……なんだろうな、うーん」
カメラを構えたカメラマンはマキノの撮影の時よりも明らかに表情を険しくして比奈を見た。
「よ、よろしくおねがいす……します」
比奈の声には緊張が見て取れる。
無理もない。ほんの二カ月程度前まで素人だった人間だ。
「ふーん、ともかくはじめよう、そこ座ってみて」
「はい」
比奈はカメラマンの指示の通りにする。
「ああ……違う、そうじゃなくて、足はそっちに」
カメラマンの声にいら立ちが混ざる。
比奈は言われた通りにするが、それもイメージと会わないのか、シャッターを切る合間でカメラマンの厳しい指示は続いた。
撮影から数分経ったが、比奈の表情は硬いままだ。
「比奈さん……」
春菜も不安そうな声を漏らす。そのときだった。
「おっ! 今の、いいね! それでいこう!」
カメラマンは急にトーンを明るくして、比奈のポーズを褒めた。
「えっ、えっ?」比奈は困惑の声をあげる。「そ、そうっスか?」
「ああ、いいよ、そう、そのまま……いいね」
カメラマンは嬉しそうにシャッターを切っていく。
「へ、へへ……」
比奈の表情が緩み、笑みがこぼれた。
「あっ、可愛い、比奈さん……」
春菜がぽつりと漏らす。
俺も同感だった。緊張から放たれて弛緩した表情と姿勢とが、比奈の魅力を高めている。
「リサーチによれば、あれが彼の技術らしいわ」
いつのまにか隣に立っていたマキノが得意顔で言った。
「なるほどな」
納得できた。さすがは名の通ったプロということだ。
被写体に応じて、その魅力を引き出すためのアプローチや話術を変えているんだ。
比奈は撮影開始前、明らかに緊張し固まっていた。だからまず厳しい声色でより緊張感を高めたあと、一気に弛緩させて魅力を引き出した。
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