【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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62: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/21(日) 00:14:28.57 ID:9pse+9K10
「カメラマンさん到着しましたー! おはようございます!」

 入口付近から声がかかり、追従するスタッフたちのおはようございますの声の中、俺たちはいっせいにそちらを注目する。
 長身で白髪の混じったヒゲを蓄えた、ハットをかぶった細身の中年男性が、スタッフたちに手で挨拶をしながらスタジオへと入ってきた。
 今日のカメラマンだ。

「おはようございます、美城プロダクションです。今日はよろしくお願いします」

 俺はカメラマンへ礼をして、名刺を差し出す。
 カメラマンはああ、と返事をしながら、つまらなさそうに俺の名刺を受け取った。

「そっちが今日のモデルさんたちね」

「よろしくおねがいします!」

 三人の声が重なってスタジオに響いた。

「ん、さっそく、やってこっか」

 カメラマンは軽く言いながら、機材のトランクを開けて準備を始める。

「お願いします」

「順番とかある? これ資料かな」カメラマンはテーブルの上の資料をとると、ぺらぺらとめくった。「聞いてたことと変わんないよね? じゃ……」

 言って、カメラマンは三人を順番に見た。

「……キミからにしよ」

 カメラマンはマキノに声をかける。マキノは「はい」と短く返事をした。心なしか声に緊張が混じっている。

「事前の調査のとおり……」

 マキノはほんの少しうつむいて、周りに聴こえるかどうかの声で、小さくつぶやいた。それから顔をあげる。

「……マキノ」

 俺に声をかけられて、マキノは立ちどまる。

「なに?」

「あー……」話しかけておいて、俺は困った。緊張をほぐそうとしたものの、マキノのことを知らなさすぎてかける言葉が思いつかない。「その……気楽にな」

 苦し紛れに言った俺を観ながら、マキノは目を丸くして、それから軽く噴き出した。

「……次からは、あなたのことももっと調査するわ。……ありがとう」

 マキノはそう言って、カメラマンの前へと歩いて行った。

「んじゃ、行くね」言いながら、カメラマンはシャッターを押していく。「うん、いいね、すこし顎を引いて……手は自然に、そう、いいよ」

 簡潔に指示を飛ばしながら、カメラマンはマキノの写真を撮り続けた。
 比奈と春菜は次の自分の番に備えてだろう、真剣にそのようすを眺めている。

 ポーズを変え、シーンを変え、マキノの撮影は続いた。
 マキノもだいぶ慣れたようで、同じ涼やかな表情でも、その内側からは緊張が消えていく。
 少しずつ、カメラマンとのやりとりもかみ合ってきた。
 時にはマキノの提案を取り入れ、マキノとカメラマンのあいだで試行錯誤しながら撮影が進む。カメラマンのテンションも次第に上がってきた。

「ん、んー……」カメラマンは悩むような唸り声をあげた。「たとえば、ちょっと眼鏡、取ってみようか?」

「えっ」

 明らかに不安の混じった小さな声を漏らしたのは、マキノではなくて俺のとなりに居た春菜だった。
 マキノはちらりと春菜のほうに視線を送って、それからもう一度カメラマンのほうを見た。

「私は、違うと思うけれど」

 マキノはそう言ってから、眼鏡をはずしてみせる。
 数秒の沈黙。

「うん、確かに。キミの言う通り、ちょっと違ったみたいだ。眼鏡かけて」

 カメラマンの指示の通りにマキノは眼鏡をかけ、撮影が再開する。
 俺は横の春菜を見た。少し表情が暗い。

「あの、プロデューサー」

 春菜がこちらを不安そうに見ていた。

「……どうした?」

「今日は、その……」

 春菜はそこまでで口をつぐみ、その先を言わなかった。



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